「両親、二人とも認知症らしいんです」
遠方に住む娘さんから、震える声で電話がありました。久しぶりの帰省で実家を訪れたら、冷蔵庫には腐った食材が大量に詰まり、父の薬は飲み忘れの跡、母は娘の名前を呼べなくなっていた——。
これが、現在静かに増えている 「認認介護」 の典型的な発見シーンです。
認認介護(にんにんかいご)とは、認知症の高齢者が認知症の高齢者を介護している状態。厚生労働省の調査では老老介護世帯の約1〜2割が該当すると推定され、社会的に「見えにくい」深刻な問題として注目されています。
本記事では、介護福祉士として認認介護のご家族の支援に関わってきた経験から、2026年4月時点の制度に基づいて認認介護の実態・早期発見のサイン・対応の手順・遠方の家族の役割を整理します。命に関わる緊急性のあるケースもあるため、迷ったら即座に地域包括支援センターに相談してください。
認認介護とは|「見えにくい」深刻な現実
定義と推定規模
認認介護は、認知症の高齢者が認知症の高齢者を介護している状態を指します。多くは夫婦間ですが、兄弟姉妹間、親子間(共に高齢)のケースもあります。
厚生労働省「国民生活基礎調査」の老老介護データからの推計では、老老介護世帯のうち約1〜2割が認認介護に該当すると見られています。具体的な戸数は把握が困難ですが、潜在的には数十万世帯に上る可能性があります。
「気づかれない」のが最大の問題
認認介護がもっとも怖いのは、本人たちが自分の状態を客観視できないこと。
- 「困っている」と認識できない
- 家族・近所・行政に助けを求められない
- 近所付き合いが減って外部の目が届かない
- 遠方の子は電話の声だけでは気づきにくい
- 本人たちが「介護保険?何それ」と申請に至らない
結果として、家族(特に遠方の子)か近所が発見するまで放置される構造になります。
認認介護のリスク|命に関わる5つの危険
共倒れ・孤立死
本人たちが食事・服薬・通院・家事を管理できなくなると、栄養失調・脱水・感染症から急速に体力が落ちます。一方が倒れると、もう一方は助けを呼べず、最悪のケースでは孤立死につながります。
服薬管理の破綻
- 飲み忘れによる持病の悪化
- 重複服薬による副作用
- 違う薬を飲んで救急搬送
家庭内事故
- 火の不始末(鍋の焦げ・コンロの消し忘れ)
- 段差・浴室での転倒
- 暖房器具による低温やけど
- 水道の出しっぱなしによる漏水
経済的破綻
- 請求書の未払いで電気・ガス停止
- 振り込め詐欺・消費者被害
- 必要なお金を引き出せない(ATMの操作不可)
虐待の発生
意外に思われるかもしれませんが、認認介護では無意識の虐待が起きることがあります。
- 本人にイライラして手が出る
- 食事を与えるのを忘れる(ネグレクト)
- 怒鳴る・突き飛ばす
- 失禁等に対する暴言
本人たちに「虐待している」自覚がないため、外部からの介入なしには止まりません。
⚠️ 緊急時の相談・通報窓口
明らかな虐待・栄養失調・命の危険があるときは即座に通報してください。
・地域包括支援センター(市区町村ホームページで検索)
・市区町村高齢福祉課
・警察(緊急時は110番、相談は#9110)
・高齢者虐待防止法に基づく通報義務:気づいた人は誰でも通報できます
通報者の情報は守られます。「他人事ではない」と感じたら動いてください。
早期発見のサイン|遠方の子・近所が気づくチェックリスト
家の状態
- 家の中が散らかったまま改善されない
- 冷蔵庫に同じ食材が大量に重複している
- 賞味期限切れの食品・腐った食材がそのまま
- ゴミ袋が玄関に積まれている
- 洗濯物が干されたまま数日放置
- 請求書・郵便物が未開封で積まれている
本人たちの状態
- 夫婦のどちらかが極端に痩せた
- 同じ服を何日も着続けている
- 清潔感が著しく失われた
- 同じ話を何度も繰り返す
- 家族の名前を呼び間違える/思い出せない
- 会話が噛み合わない
外との関係
- 近所付き合いが急に途絶えた
- 外出時に道に迷うことがある
- 近所の人が「最近見かけない」と心配している
- 新聞受けに新聞が溜まっている
- 夜中に徘徊している姿を見かけられた
金銭・服薬
- 同じものを何度も買う
- 銀行で引き出しのトラブルが続く
- 薬の飲み忘れの跡(残薬が溜まる)
- 処方が重複している
これらが3つ以上重なるなら、認認介護を疑って地域包括支援センターに相談してください。
発見後の対応|まず動く先と順序
第一段階:地域包括支援センターに電話(最重要)
発見した時点で、まず地域包括支援センターに電話してください。
- 市区町村が運営する公的機関で相談無料
- 保健師・社会福祉士・主任ケアマネが連携対応
- 家庭訪問・状況確認まで動いてくれる
- 遠方の家族からの相談もOK
- 必要なサービス(介護保険申請・成年後見・施設入所)への橋渡し
「うちの両親、両方とも認知症らしいです」と伝えるだけで、地域包括は動きます。

第二段階:主治医(かかりつけ医)への連絡
- 本人たちの主治医に状況を共有
- 認知症の確定診断を受ける
- 主治医意見書の準備(介護保険申請に必要)
- 必要に応じて認知症専門医を紹介してもらう
第三段階:介護保険申請
夫婦それぞれの要介護認定を申請します。
- 地域包括が代行申請可能
- 夫婦両方とも申請(要介護度は別々に判定)
- 申請から認定まで30〜60日
- 緊急時は暫定ケアプランで即サービス開始可

第四段階:成年後見制度の検討
金銭管理・財産管理ができない状態なら、成年後見制度の利用を検討。
- 家庭裁判所への申立から後見人選任まで2〜4か月
- 市町村民税非課税世帯は成年後見制度利用支援事業で費用補助
- 軽度なら社会福祉協議会の日常生活自立支援事業も選択肢

遠方の子の役割|「離れているからこそ」できること
定期的な状況確認
- 週1回以上の電話(会話の質も確認)
- 月1回の帰省(実家を実際に目で確認)
- 近所の協力者を1人作る(民生委員・親族・古い友人)
- 地域包括との定期連絡
家計・財産の管理
- 銀行で代理人カード/代理人指名を申請
- 公共料金の支払いを口座引落に切替
- 本人たちの年金・貯蓄状況を把握
- 必要に応じて成年後見・家族信託を準備
見守り技術の活用
- セキュリティ会社の高齢者見守りサービス
- センサー(電気・水道使用状況の通知)
- 見守りカメラ(本人の同意下で)
- 緊急通報ボタン
- GPS(徘徊対策)
兄弟・親族との分担
- 主介護役・経済支援役・情報共有役の役割分担
- 月1回の家族会議(電話・オンラインでOK)
- 意思決定は家族全員で(後の揉め事を防ぐ)
本人たちの「在宅か施設か」を判断する
在宅を続けるための条件
認認介護の方々が在宅を続けるには、以下の体制が必要です。
- 介護保険サービスを最大限活用(訪問介護・デイ・ショート・福祉用具)
- 24時間の見守り体制(センサー・近所の協力・遠隔モニター)
- 金銭管理を家族または成年後見人が代行
- 近隣・民生委員・地域包括の定期訪問
- 遠方の子の月1回以上の帰省
施設入所を検討すべきサイン
- 共倒れの危険が現実的になっている
- 夫婦間で暴言・暴力が見られる
- 火の不始末・転倒事故が頻発
- 遠方の子が月1回の帰省でも体制を維持できない
- 本人たちの体重・健康状態が急速に悪化
夫婦で入れる施設の選択肢
- 有料老人ホーム(住宅型・介護付き):夫婦部屋がある事業所
- サービス付き高齢者向け住宅:自立度が比較的高い場合
- グループホーム(認知症対応型共同生活介護):認知症専門だが夫婦同室は限定的

「無理やり施設」への抵抗を超える
「親を無理やり施設に入れるのは可哀想」という気持ちは自然です。けれど、認認介護の現場で見てきたのは、
- 施設に入って栄養状態が改善し、表情が戻った夫婦
- 家族が安心して定期面会できるようになった関係性
- 本人たちが「ここなら安心」と話すようになった姿
といったケースです。「在宅で続ける=幸せ」とは限りません。命と生活の質を最優先に、客観的に判断してください。
介護福祉士から見た|認認介護の家族支援の現実
介護福祉士 SEDO(経験7年)
認認介護の現場で何度も感じたのは、「気づくのが遅れた家族ほど、後悔が深い」ということ。「もっと早く気づいていれば」「あの帰省のときに動いていれば」と振り返るご家族が本当に多いです。
逆に、早期発見・早期対応ができたご家族の共通点は、
- 定期的な実家訪問を欠かさない:電話だけでは見落とす変化を、目で見て確認
- 近所・民生委員との関係を維持:第三者の目があると変化に気づきやすい
- 「親の暮らし」を客観視する勇気がある:「年だから」「いつものこと」と片付けない
- 地域包括への相談を躊躇しない:「うちの親は大丈夫」と思わない
そして、もっとも大切なのは——「親の尊厳を守るために動く」と覚悟を持つこと。
認認介護を放置することは、本人たちの尊厳ある暮らしを守れないことに直結します。「干渉したくない」「親の判断を尊重したい」気持ちは分かりますが、本人たちが客観的判断ができない状態にあることを忘れないでください。
近所・地域の方ができること
気になる高齢世帯を見かけたら
- 新聞・郵便物が溜まっているとき
- 家から異臭がする
- 夜中に徘徊している
- 長期間姿を見ない
- 暴言・大きな物音が聞こえる
これらに気づいたら、ためらわず地域包括支援センターまたは市区町村高齢福祉課に連絡してください。「他人の家庭に口を出していいのか」と迷う気持ちは自然ですが、命を守る情報提供は福祉の仕事です。
通報者は守られる
高齢者虐待防止法では、通報者の情報は保護されます。本人や家族に「あなたが通報した」と伝わることはありません。安心して連絡してください。
まとめ|「気づいた人が動く」しかない
本記事の要点を整理します。
- 認認介護は潜在的に数十万世帯が該当する深刻な問題
- 本人たちが客観的判断できないため、家族・近所・行政の早期介入が必須
- 命に関わるリスクは、共倒れ・栄養失調・服薬破綻・事故・虐待の5つ
- 発見後の動線:地域包括 → 主治医 → 介護保険申請 → 成年後見
- 遠方の子の役割は、定期確認・財産管理・見守り技術・分担の4本柱
- 在宅維持が困難なら、夫婦で入れる施設も選択肢
- 気づいた近所の方は、地域包括・市区町村への通報を躊躇しない
「うちの両親は大丈夫」「年だから仕方ない」で済ませず、違和感を覚えた今、地域包括に1本電話を。それが、本人たちの命と尊厳を守る最初の一歩になります。
▶ 次のステップ
・老老介護のリアル → 老老介護のリアル|夫婦で支え合うときの現実と限界の見極め
・親の認知症と銀行口座 → 親の認知症で銀行口座が凍結される前に
・地域包括支援センターの使い方 → 地域包括支援センターの使い方
・介護費用が払えないときの公的支援 → 介護費用が払えないときに使える公的支援6制度
よくある質問
Q:認認介護とはどんな状態を指しますか?
A:認認介護は、認知症の高齢者が認知症の高齢者を介護している状態を指します。多くは夫婦間のケースで、両者ともに認知症の診断を受けているか、または一方が未診断のまま症状が進行している状態です。厚生労働省の老老介護調査では、老老介護世帯のうち認認介護に該当する世帯は約1〜2割と推定されており、社会的に「見えにくい」深刻な問題として注目されています。本人たちは自分たちの状態を客観視できないため、共倒れ・栄養失調・服薬管理破綻・家庭内事故などのリスクが極めて高く、家族や地域・行政の早期介入が必須です。
Q:認認介護に気づくサインは?
A:次のサインが見られたら認認介護を疑ってください。①家の中が散らかったまま改善されない、②冷蔵庫に同じ食材が大量に重複している(買い物を忘れて何度も買う)、③請求書の未払い・郵便物の放置、④服薬の重複や飲み忘れの跡、⑤夫婦のどちらかが極端に痩せた、⑥近所付き合いが急に途絶えた、⑦同じ話を何度もする・話が噛み合わない、⑧外出時に道に迷う。これらが3つ以上重なるなら、すぐ地域包括支援センターに相談してください。本人たちは自分から助けを求められない状態にあるため、周囲が動くことが命を守ります。
Q:認認介護を見つけたとき、まずどこに相談すればいい?
A:最優先は地域包括支援センターへの電話です。地域包括は認認介護のリスク家族への早期介入を担う公的機関で、保健師・社会福祉士・主任ケアマネが連携して対応します。電話1本で家庭訪問・状況確認・必要なサービスの導入まで動いてくれます。次に重要なのは、本人たちの主治医(かかりつけ医)への状況共有。介護保険申請や成年後見制度の利用が必要になることが多いため、初動が早いほど選択肢が広がります。明らかに虐待や緊急性がある場合は、市区町村高齢福祉課または警察への通報も検討してください。遠方の家族でも、電話1本で地域包括は動いてくれます。
📚 出典・参考
・厚生労働省「国民生活基礎調査」(介護関連項目)
・厚生労働省「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」
・厚生労働省「認知症施策推進大綱」
・全国地域包括支援センター協議会
・公益社団法人 認知症の人と家族の会
・各市区町村「高齢者虐待防止」「養護者支援」関連要綱
※虐待・緊急性がある場合は迷わず地域包括支援センター・市区町村高齢福祉課・警察にご相談ください。情報は2026年4月時点の一般的な解説で、個別の判断は地域包括・主治医・社会福祉士等の専門職にご相談ください。


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