「先生、母がまた家からいなくなっていて……。近所を探しても見つからなくて、さっき警察に届けを出してきたところなんです」
ある日、認知症のお母様を在宅で介護している娘さんから、電話越しに震える声でこんなご相談を受けました。要介護2、お母様は昼間ひとりで留守番している時間があり、その間に玄関を出て、そのまま戻れなくなってしまう——。この日は幸い、夕方に隣町の交番で保護され、無事に帰ってこられました。けれど娘さんは「今度こそ事故に遭っていたら、と思うと怖くて、もう仕事に行けません」とすっかり憔悴していました。
私は介護福祉士として7年間、認知症ケアの現場で多くのご家族に伴走してきました。そのなかで断言できるのは、「徘徊(はいかい)」は決して珍しいことでも、家族の見守りが足りなかったからでもないということです。認知症の方が外を歩いて戻れなくなることは、誰にでも起こりうる。そして——ここが最も大切なのですが——あらかじめ「見つかる仕組み」を作っておけば、被害は最小限に抑えられます。
この記事では、2026年7月時点の情報をもとに、次のことを整理してお伝えします。
- そもそも、なぜ認知症の人は外を歩いて戻れなくなるのか(原因)
- 徘徊がもたらすリスクと、知っておきたい賠償のこと
- 今日からできる、家庭内の予防の工夫
- GPS端末の選び方(内蔵靴・キーホルダー型・見守りアプリの違い)
- 警察・地域包括支援センターと「事前につながっておく」方法
- もし行方不明になってしまったときの初動対応
- 見守る家族自身が倒れないためのケア
なお、制度や費用、保険は2026年7月時点の情報です。自治体によって名称や内容が大きく異なるものが多いため、具体的な手続きや金額は必ずお住まいの市区町村窓口・地域包括支援センターで確認してください。また、症状や薬に関する判断は主治医・かかりつけ医に相談していただくことを前提に、本記事は「家族が備えるための地図」としてお使いください。
なぜ認知症の人は「徘徊」するのか
対策を考える前に、まず「なぜ起きるのか」を知ることが、実は一番の予防になります。理由がわかれば、声かけも環境づくりも的を射たものになるからです。
「目的のない外出」ではない――本人なりの理由がある
「徘徊」という言葉には「あてもなくうろつく」という響きがありますが、現場で関わっていると、ほとんどのケースに本人なりの理由や目的があることがわかります。近年、この言葉が本人を尊重していないとして、「ひとり歩き」と言い換える動きも広がっています。
実際にご本人が語る理由は、たとえばこんなものです。
- トイレを探しているのに、自宅の中で場所がわからなくなり、外まで探しに出てしまう
- 昔の職場や実家に「行かなければ」と思い込み、何十年も前の記憶のままに出かけようとする
- 「ここは自分の家ではない」と感じて(自宅なのに)、本当の家に帰ろうとする
- 不安やそわそわした気持ちから逃れるように、じっとしていられず外に出てしまう
つまり本人にとっては「意味のある行動」なのです。頭ごなしに「どこ行くの、ダメでしょ」と止めると、かえって不安や混乱が強まってしまいます。この「本人なりの理由」を探る視点は、後述する声かけや予防の土台になります。
専門用語「BPSD」をやさしく理解する
徘徊を理解するうえで、ひとつだけ知っておくと役立つ言葉があります。BPSD(ビーピーエスディー/行動・心理症状)です。
難しそうな言葉ですが、中身はシンプルです。認知症には、脳の変化そのものによる「もの忘れ」「時間や場所がわからなくなる」といった中核症状があります。この中核症状に、不安・体調不良・環境の変化・周囲の接し方などが加わったときに、二次的に現れるのがBPSDです。徘徊(ひとり歩き)のほか、「もの盗られ妄想」「暴言」「介護拒否」「帰宅願望」などがこれにあたります。
ここで大事なのは、BPSDは「加わった要素」を取り除けば和らぐことがあるという点です。徘徊も、不安を取り除いたり、生活リズムを整えたりすることで、頻度が減るケースは少なくありません。「認知症だから仕方ない」とあきらめず、背景にある要因に働きかける——これが対応の基本姿勢です。BPSDへの具体的な向き合い方は、もの盗られ妄想を例にこちらの記事でも詳しく解説しています。

起きやすい時間帯・状況を知っておく
徘徊は「いつ起きてもおかしくない」ものですが、現場で関わっていると、起きやすいタイミングがあると感じます。ここを押さえておくと、見守りの手を厚くする時間帯がわかります。
- 夕方(夕暮れ症候群):夕方から夜にかけて、そわそわ落ち着かなくなり、「家に帰る」「仕事に行く」と言い出しやすい傾向があります。「夕暮れ症候群」と呼ばれ、多くのご家族が経験されます
- 環境が変わった直後:引っ越し・入院・施設入所・家族構成の変化などの直後は、不安が高まり徘徊が増えやすくなります
- 季節の変わり目・気候の変動時:体調が不安定になりやすく、それが不穏につながることがあります
なお、認知症にはいくつかのタイプがあり、タイプによって出やすい症状の傾向も異なります。「うちの親の場合はどうなのか」を知る手がかりとして、認知症の4大タイプを比較した記事もあわせてご覧ください。

症状のあらわれ方や進み方には個人差が大きく、背景に別の身体的な不調(脱水・感染症・便秘・薬の影響など)が隠れていることもあります。急に徘徊が増えた・様子が明らかに変わったといったときは、認知症の進行だけで片づけず、まず主治医・かかりつけ医に相談してください。
徘徊がもたらすリスクと家族の負担
「少し目を離した隙に」——徘徊が怖いのは、そのわずかな時間が命に関わることがあるからです。ここでは身体・精神・そして意外と見落とされがちな「法的なリスク」を整理します。備えるべき現実を、正直にお伝えします。
身体のリスク――事故・行方不明・低体温症/熱中症
外を一人で歩くことには、健康な人でも思う以上の危険が伴います。認知症の方の場合、判断力の低下も重なり、リスクはさらに大きくなります。
- 交通事故:信号や車の動きの判断が難しくなり、道路上での事故に遭いやすい
- 転倒・転落・溺水:段差・側溝・川・線路など、危険な場所に入り込んでしまう
- 低体温症(冬)・熱中症(夏):長時間屋外にいることで、季節によっては命に関わる状態に陥る
- 長時間・遠距離の行方不明:電車やバスに乗って想像以上に遠くまで行ってしまうこともある
特に夏場の熱中症は、発見が遅れると重篤化します。高齢者は喉の渇きを感じにくく、自分で水分を取れないまま炎天下を歩き続けてしまうことがあるため、夏の日中の外出は特に警戒が必要です。高齢者の熱中症・脱水の予防については、別記事でも詳しく解説しています。
家族の精神的な負担――「常時見張り」による介護疲れ
徘徊のあるご家庭で、私が最も心配するのは、実は介護する側の疲弊です。「いつ出て行くかわからない」という緊張が24時間続くと、家族は片時も気が休まりません。
夜も熟睡できず玄関の音に神経をとがらせ、トイレに立つたびに本人の様子を確認する。買い物や自分の通院にも安心して出かけられない。この「常時見張り」の状態が続くと、介護する側が心身ともに追い詰められていきます。だからこそ徘徊対策は「本人の安全」と「家族が倒れないこと」の両輪で考える必要があるのです。この点は記事後半でも改めて取り上げます。
知っておきたい「個人賠償責任保険」(法的リスクへの備え)
ここは見落とされがちですが、非常に重要なポイントです。認知症の方が徘徊中に、他人にケガをさせたり、物を壊したり、鉄道の線路に立ち入って列車を止めてしまったりした場合、その損害賠償を家族が求められる可能性があります。過去には、認知症の方が起こした鉄道事故をめぐり、家族の賠償責任が長い裁判で争われた事例もありました。
もちろん、家族が必ず責任を負うわけではなく、状況によって判断は分かれます。ただ、「万が一」に備えておくことで、精神的な余裕がまったく変わってきます。その備えとして知っておきたいのが「個人賠償責任保険」です。
これは、日常生活の中で他人にケガをさせたり物を壊したりして法律上の賠償責任を負ったときに補償される保険で、多くは火災保険・自動車保険・傷害保険の「特約」として付けられます。すでに加入している保険に、気づかず付いている場合もあります。さらに近年は、自治体が認知症の方向けの賠償責任保険を公費で用意している例も増えてきました。
📝 賠償責任保険についてのご注意(YMYL)
補償の範囲、認知症の方(責任能力が問われるケース)による事故が対象になるか、本人が契約者でなくても対象になるかは、保険商品ごとに大きく異なります。まずはご自身が加入中の保険の特約を確認し、具体的な補償内容・加入方法は必ず保険会社に、法的な責任の考え方に不安があれば弁護士に確認してください。自治体の保険制度の有無は市区町村窓口・地域包括支援センターで確認できます(2026年7月時点)。
今日からできる徘徊予防の環境づくり
ここからは、具体的な「予防」の話に入ります。徘徊は完全にゼロにはできなくても、頻度を減らし、リスクを下げる工夫はたくさんあります。特別な道具がなくても、今日から始められることばかりです。
生活リズムを安定させる
意外に思われるかもしれませんが、規則正しい生活そのものが、最も効果的な徘徊予防のひとつです。生活リズムが乱れて昼夜が逆転すると、不安やそわそわが強まり、外に出たくなる引き金になります。
- 毎日決まった時間に食事をとる:生活の「区切り」ができ、心が安定しやすい
- 日中に日光を浴びる:体内時計が整い、夜の睡眠が深くなる。散歩を「一緒に」できれば運動にもなり一石二鳥
- 役割や出番をつくる:洗濯物たたみ、庭の水やり、食事の準備の手伝いなど。「自分は役に立っている」という実感が不安をやわらげる
「エネルギーを日中に適度に使い、夜はぐっすり眠る」——このリズムができると、夕暮れ症候群が和らぐことがよくあります。
玄関・窓の工夫(「閉じ込め」にならない範囲で)
「出て行けないように鍵をかければいいのでは」と考える方は多いのですが、ここには大事な注意点があります。本人が自由に出入りできないよう常時鍵で閉じ込めることは、身体拘束・虐待にあたるおそれがあります。目指すのは「出られなくする」ことではなく、「出たことに気づける」仕組みです。
- センサー付きチャイム・開閉センサー:玄関ドアが開くと家族のスマホや室内チャイムに通知が届く
- ドアに鈴やベル:安価で今日から使える。ドアが開くと音で気づける
- 補助錠の位置を変える:いつもと違う高さに鍵を付けると、本人が操作に手間取る間に家族が気づける
💡 環境づくりの合言葉
「閉じ込める」のではなく「気づける」
「行動を止める」のではなく「理由を満たす」
「安心できる声かけ」の具体例
本人が出かけようとしているとき、どう声をかけるか。ここで対応が180度変わります。ポイントは「否定しない・説得しない・付き合う」の3つです。
たとえば「家に帰る」と言って玄関に向かう方に、「ここがあなたの家でしょう」と正論を返しても、本人は納得できず、かえって「この人は私をだましている」と不信感を強めてしまいます。かわりに、こんな対応が有効です。
- まず気持ちを受け止める:「そうですか、おうちに帰りたいんですね」といったん受け入れる
- 一緒に歩く:無理に止めず、「じゃあ一緒に行きましょうか」と付き添って少し歩く。歩くうちに気持ちが落ち着き、目的を忘れて帰る気になることも多い
- 関心を別に向ける:「その前にお茶でも一杯どうですか」と、本人が心地よくなれる別の行動に自然に誘う
介護福祉士 SEDO(経験7年)
現場でよくお伝えするのは、「本人の世界を否定せず、まず同じ側に立つ」ということです。「帰りたい」という気持ちの奥には、たいてい「不安」や「安心したい」という願いがあります。その気持ちにそっと寄り添うだけで、玄関の前でくるりと向きを変えて戻ってくださる方は本当に多いのです。
GPSで見守る――機器選びの実践ガイド
予防を尽くしても、徘徊を100%防ぐことはできません。だからこそ、「出てしまっても早く見つけられる」備えが重要になります。その主役がGPS端末です。ここでは機器選びの実践的なポイントを整理します。
GPS内蔵靴・キーホルダー型・見守りアプリの違いと選び方
GPS(ジーピーエス)とは、人工衛星を使って「今どこにいるか」を割り出す位置情報の仕組みのことです。この機能を使って、離れた家族がスマホなどで本人の居場所を確認できるようにするのが「見守りGPS」です。大きく分けて、次の3タイプがあります。
- GPS内蔵の靴・インソール型:靴やインソールにGPSを埋め込むタイプ。外出時に必ず履くため装着忘れが起きにくく、本人も「見守られている」と意識せずに済むのが最大の利点。抵抗感を持たれにくい
- キーホルダー型・ペンダント型:カバンやお守り袋、財布などに入れて持ち歩く小型端末。導入は手軽だが、本人が「持たずに出てしまう」と機能しないのが弱点
- スマホの見守りアプリ:本人がスマホを日常的に持ち歩く場合に有効。家族のアプリと連携して位置を共有できる。ただし充電やスマホ操作が本人にとって負担になることもある
選ぶときは、次の点を比べてください。①費用(本体価格+月額の利用料がかかるものが多い)、②充電の頻度と手間、③本人が抵抗なく身につけられるか。特に③は重要で、どんなに高機能でも本人が持ってくれなければ意味がありません。「本人が毎日必ず身につけるものは何か」から逆算して選ぶのがコツです。
⚠️ GPS端末を選ぶときのチェックポイント
1. 装着忘れが起きにくいか(必ず履く靴・毎日持つ物に付けられるか)
2. 費用(本体価格と月額利用料の合計で比較)
3. 充電の頻度(毎日か、数日〜週単位か)
4. 測位の精度と通知の速さ(屋内や地下で弱くなることも)
5. 本人が抵抗なく受け入れられるか
自治体の「高齢者位置情報探索サービス」補助
GPS端末は自費で用意するのが基本ですが、多くの自治体が、認知症高齢者向けにGPS端末の貸与や購入費用の補助を行っています。「徘徊高齢者位置情報探索サービス」「認知症高齢者見守り支援」など、名称や内容は自治体によってさまざまです。
月額数百円程度の自己負担で利用できるケースや、初期費用が補助されるケースもあり、使わない手はありません。ただし——制度の有無・名称・自己負担額・対象要件は自治体ごとに大きく異なります(2026年7月時点)。まずはお住まいの市区町村の介護保険担当窓口・地域包括支援センターに「GPSの補助はありますか」と問い合わせるのが確実です。
家族間でのアプリ共有・通知設定のコツ
GPSは「導入して終わり」ではありません。いざというときに家族全員がすぐ確認できる状態にしておくことが肝心です。
- 複数の家族で位置情報を共有:主介護者だけでなく、離れて暮らすきょうだいや子どもも見守りアプリに登録しておく
- 「指定エリアを出たら通知」の設定:自宅から一定範囲を出ると自動でスマホに通知が来る機能があれば、早期発見につながる
- 充電のルール化:「夜、寝る前に充電器に置く」など、日課に組み込んで電池切れを防ぐ
離れて暮らす家族の見守りという観点では、遠距離介護を続けるための工夫をまとめた記事も参考になります。

地域と事前につながっておく――「見つかる仕組み」を作る
ここが、この記事で最もお伝えしたい章です。徘徊対策の本質は、家族だけで抱え込むことではなく、「地域全体で見つける仕組み」をあらかじめ作っておくことにあります。困ってから動くのではなく、元気なうちから「つながっておく」——これが被害を最小限にする最大の鍵です。
地域包括支援センターへの事前相談・情報登録
地域包括支援センターとは、市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口です。介護・福祉・医療の専門職(保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーなど)が在籍し、介護に関するあらゆる相談を無料で受け付けています。担当エリアが決まっているので、「(お住まいの地域名)地域包括支援センター」で検索すれば、担当の窓口が見つかります。
徘徊の不安があるなら、まだ行方不明になっていなくても、今のうちに相談しておくことを強くおすすめします。センターでは、地域の見守りネットワークの紹介、GPS補助制度の案内、後述する警察との事前連携の橋渡しなど、地域の実情に合わせた具体策を教えてくれるでしょう。地域包括支援センターの使い方は、こちらの記事で詳しく解説しています。

警察への事前届出(認知症高齢者等SOSネットワーク等)
多くの自治体・警察には、認知症の方の情報をあらかじめ登録しておく仕組みがあります。代表的なのが「認知症高齢者等SOSネットワーク」と呼ばれる制度です。
これは、本人の氏名・写真・身体的特徴・服装の傾向・立ち寄りそうな場所などを事前に警察や自治体に登録しておき、行方不明になったときに、その情報をもとに地域全体で速やかに捜索・保護する仕組みです。事前登録があると、通報を受けた警察がすぐ特徴を把握でき、発見までの時間が大きく短縮されます。
ただし、制度の名称・運用・登録方法は、自治体や都道府県警によって異なります(2026年7月時点)。「うちの地域にもあるのか」「どう登録するのか」は、お住まいの市区町村窓口・地域包括支援センター・最寄りの警察署に確認してください。地域包括支援センターに相談すれば、この登録の案内までまとめて教えてもらえることが多いです。
近隣・商店街・コンビニへの「さりげない見守り依頼」
制度だけでなく、ご近所や地域のお店との「顔の見える関係」も、いざというとき大きな力になります。「認知症であることを知られたくない」という気持ちもよくわかりますが、事情を打ち明けておくことで、地域が見守りの目になってくれます。
- 信頼できるご近所に「母が一人で歩いていたら、声をかけて教えてもらえますか」と一言お願いしておく
- よく行く商店・コンビニ・薬局に、そっと事情を伝えておく
- 連絡先を身につけてもらう:名前と家族の電話番号を書いたカードを財布に入れる、キーホルダーや衣類に連絡先を縫い付ける・貼る
介護福祉士 SEDO(経験7年)
実際に、近所のコンビニの店員さんが「いつもと様子が違う」と気づいて声をかけ、そのまま保護につながったケースを何度も見てきました。地域に「この人を知っている人」を一人でも増やしておくこと。それが、どんな高性能な機械にも勝る安心の網になります。
もし行方不明になってしまったら(初動対応)
備えていても、行方不明になることはあります。そのときにパニックにならないよう、初動で何をするかを、平時のうちに家族で決めておきましょう。「最初の1時間」が発見の分かれ目になります。
まず何をするか――家族内共有 → 行きそうな場所 → 110番
いなくなったことに気づいたら、次の順で動きます。ためらわないことが何より大切です。
- 家族・親族に一斉連絡:手分けして探せるよう、まず情報を共有する。GPSがあればすぐ位置を確認
- 行きそうな場所を確認:昔の職場、実家、よく行っていた店、思い出の場所など、「本人なりの理由」から予測できる行き先を回る
- ためらわず110番:「まだ大げさかも」と遠慮せず、早めに警察へ。事前にSOSネットワーク等へ登録していれば、特徴がすぐ共有され捜索が早まる
繰り返しになりますが、認知症の方の行方不明は命に関わります。通報をためらう必要はまったくありません。警察も「早めに連絡してほしい」という立場です。何度目であっても、遠慮せずに助けを求めてください。
「様子がおかしい」と気づいた人からの連絡への備え
発見のきっかけは、通りすがりの人や店員さんの「あれ、この人大丈夫かな」という気づきであることが少なくありません。そのとき連絡先がわかれば、その場ですぐ家族に電話してもらえます。
- 連絡先カード:名前・家族の電話番号を書いたカードを、財布や上着のポケットに常備
- 名前入りのキーホルダー・見守りシール:持ち物や衣類、靴に、連絡先を記した小さなタグを付けておく(QRコードで家族に通知が届くタイプもある)
- 衣類への記名:直接見えない場所に、そっと連絡先を記しておく
これらは数百円で今日から始められる、費用対効果の非常に高い備えです。GPSと組み合わせれば、「機械で位置を追う」「人の善意で保護される」の二重の網になります。
介護者自身のメンタルケア
最後に、どうしてもお伝えしたいことがあります。徘徊対応は、介護する家族自身が倒れてしまっては続きません。本人の安全と同じくらい、見守るあなたの心と体を守ることが大切です。
「見張り疲れ」を溜めないために
24時間の緊張は、必ずどこかで限界を迎えます。「自分がしっかりしなければ」と気を張り続けるのではなく、意識的に休む仕組みを作ってください。
- デイサービスやショートステイ(短期入所)を活用する:本人を専門職に預ける時間を作り、家族が休む(レスパイト)
- 見守りを分担する:GPSや地域の目を頼り、「自分一人で見張らなくていい」状態を作る
- 「完璧を目指さない」と決める:徘徊はゼロにできない前提で、「見つかる仕組み」に力を注ぐほうが、心はずっと軽くなる
一人で抱え込まない――専門職に相談する
不安や疲れを感じたら、遠慮なく専門職を頼ってください。担当のケアマネジャーは介護サービスの調整役として、地域包括支援センターは地域の相談窓口として、あなたの味方です。「こんなことで相談していいのかな」とためらう必要はまったくありません。
特に、認認介護(高齢の夫婦・親子がお互いを介護する状況)のように介護負担が重い場合は、家族だけで支えるのは現実的ではありません。高負担な介護状況の実態と対処については、こちらの記事も参考になります。

📝 困ったときの相談先(YMYL)
・症状・薬・急な変化 → 主治医・かかりつけ医
・介護サービスの調整 → 担当ケアマネジャー
・制度・GPS補助・地域連携・介護全般の相談 → 地域包括支援センター・市区町村窓口
・行方不明時 → ためらわず110番
・賠償責任保険の内容・法的責任 → 保険会社・弁護士
制度や補助の名称・金額は自治体ごとに異なります(2026年7月時点)。必ずお住まいの窓口で確認してください。
家族がよく抱く不安・よくある質問
最後に、ご家族から特によく受ける質問にお答えします。
GPS端末を本人が嫌がって持ってくれない場合はどうすればいいですか?
「監視されている」と感じさせない工夫が鍵です。腕時計型やキーホルダー型は抵抗感が出やすいため、お守り袋・いつも使う杖・財布、そしてGPS内蔵の靴やインソールなど、本人が毎日必ず身につけるものに忍ばせる方法が有効です。特にGPS内蔵の靴は外出時に必ず履くため装着忘れが起きにくく、本人も「見守られている」と意識せずに済みます。それでも安定しない場合は、玄関の開閉センサーや地域の見守りネットワークなどGPS以外の仕組みと組み合わせ、「二重・三重の網」をかけておくと安心です。無理に持たせようとすると不信感や不穏(BPSD)を強めることがあるため、担当のケアマネジャーとも相談しながら本人が受け入れやすい形を探しましょう。
徘徊のたびに警察へ通報すると、迷惑がられたり気まずくなったりしませんか?
遠慮は不要です。認知症の方の行方不明は、交通事故・転落・低体温症・熱中症など命に関わる事態に直結するため、警察は「ためらわず110番してほしい」という立場を明確にしています。多くの自治体には「認知症高齢者等SOSネットワーク」のように本人を事前登録しておく仕組みがあり、登録しておくと通報時に特徴がすぐ共有され発見が早まります。何度通報しても気に病む必要はまったくありません。日ごろから地域包括支援センターや警察に事情を伝えておくことで、いざというとき地域全体で見つける体制がつくれます。制度の名称や運用は自治体・都道府県警によって異なるため、お住まいの地域の窓口で具体的な登録方法を確認してください。
徘徊中の事故に備える『個人賠償責任保険』は、誰がどう入ればいいですか?
認知症の方が線路に立ち入って列車を止めたり、他人にケガをさせたりした場合、家族が高額な損害賠償を求められる可能性があります。これに備えるのが「個人賠償責任保険」で、多くは火災保険・自動車保険・傷害保険の「特約」として付けられます。契約者(多くは同居家族)を軸に同居の親族が補償対象に含まれる商品が一般的で、認知症の方本人が契約者でなくても対象になるケースがあります。ただし補償範囲や「責任無能力者による事故」が対象かは商品ごとに大きく異なります。近年は自治体が公費で賠償責任保険を用意する例も増えています。まずは加入中の保険の特約を確認し、補償範囲・加入方法の詳細は必ず保険会社に、法的な責任の考え方に不安があれば弁護士に確認してください(2026年7月時点)。
玄関に鍵をかけて外に出られないようにするのは『閉じ込め』になりませんか?
本人が自由に出入りできないよう常時鍵をかけて閉じ込めることは、身体拘束・虐待にあたるおそれがあり、避けるべきです。目指したいのは「出られなくする」ことではなく「出たことに気づける」仕組みづくりです。具体的には、玄関ドアの開閉をスマホに知らせるセンサーチャイム、ドアに付ける鈴やベル、いつもと違う位置に補助錠をつけて操作に手間取る間に気づく、といった方法があります。あわせて、なぜ外に出ようとするのか(トイレを探している、不安、昔の習慣など)の理由を探り、その欲求自体を満たすことが根本的な予防になります。対応に迷うときは、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してください。
在宅での見守りが限界です。徘徊がひどい場合、どんな選択肢がありますか?
まず日中の見守りを強化する選択肢として、少人数で認知症の方に専門対応する「認知症対応型デイサービス」の利用があります。それでも夜間を含めた常時の見守りが必要になった場合は、少人数で共同生活を送る「グループホーム」への移行も現実的な選択肢です。徘徊は介護者一人で24時間支えきれるものではありません。「家族だけで抱え込まない」ことが何より大切です。どのサービスが本人と家族に合うかは状況によって異なるため、担当のケアマネジャーや地域包括支援センター、主治医に相談しながら決めていきましょう。
まとめ|徘徊は「防ぐもの」ではなく「見つかる仕組みを作っておくもの」
認知症の徘徊(ひとり歩き)への対応で、最も大切な視点の転換をお伝えして締めくくります。それは、徘徊を「完全に防ぐ」ことにこだわりすぎないことです。要点を整理します。
- 徘徊には本人なりの理由がある。BPSD(行動・心理症状)として、不安や環境を整えることで和らぐことがある
- 予防の基本は生活リズムの安定・「気づける」環境づくり・否定しない声かけ。閉じ込めは避ける
- GPS端末は「本人が必ず身につけるもの」から逆算して選ぶ。自治体の補助制度も確認を
- 最大の鍵は地域との事前連携。地域包括支援センターへの相談、警察へのSOSネットワーク登録、ご近所への見守り依頼を、元気なうちから
- 行方不明時はためらわず110番。連絡先カードなど数百円の備えが命を守る
- そして、介護する家族自身が倒れないこと。一人で抱え込まず専門職を頼る
冒頭の娘さんも、その後、地域包括支援センターに相談し、GPS内蔵の靴を用意し、警察にSOSネットワークの登録をしました。「一人で見張らなくていいんだ、地域が一緒に見てくれるんだ」と思えたことで、表情がずいぶん和らいでいきました。徘徊は、家族だけで24時間支えきれるものではありません。だからこそ、「見つかる仕組み」を地域と一緒に作っておく——それが、本人と家族の両方を守る、いちばん現実的で確かな備えです。
まずは今日、お住まいの地域包括支援センターに電話して、「徘徊が心配なので相談したい」と伝えるところから始めてみてください。それが、大きな安心への確かな第一歩になります。
日中の見守りを強化したい場合は、少人数で認知症に専門対応する認知症対応型デイサービスという選択肢もあります。あわせてご覧ください。
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在宅での見守りに限界を感じ始めたら、認知症の方が少人数で共同生活を送るグループホームも視野に入ります。選び方の全体像はこちらでどうぞ。
の選び方完全ガイド|費用・入居条件・特養や有料との違い-320x180.jpg)
そもそも認知症とはどんな病気なのか、全体像を整理したい方は、こちらの総論記事もあわせてご覧ください。

制度・補助・保険の内容は変わることがあり、自治体によっても大きく異なります。本記事は判断の参考としてお使いいただき、症状や薬のことは主治医・かかりつけ医に、制度やGPS補助・地域連携のことは市区町村窓口・地域包括支援センターに、保険や法的責任のことは保険会社・弁護士に、必ず確認・相談してください。ご家族とご本人が、少しでも穏やかに過ごせるよう願っています。


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