「親が退院して自宅で療養することになった」「もう通院は難しい」――そう感じたとき、多くのご家族が初めて在宅医療という選択肢を意識します。けれども、訪問診療と往診の違い、訪問看護の使い方、24時間対応の意味など、仕組みが医療と介護の両方にまたがるため、最初に全体像をつかむのが一苦労です。
厚生労働省の調査では、最期を迎える場所として「自宅」を希望する方は約半数に達しますが、実際に自宅で亡くなる方は約2割にとどまります。多くの家族が在宅で看取りたいと思いつつ、医療体制の不安から踏み切れていない現実があります。
本記事では、介護福祉士として現場で多くの在宅看取りに関わってきた経験をふまえ、2026年4月時点での在宅医療の仕組みを整理します。訪問診療・往診・訪問看護の違い、費用、選び方、依頼の流れまで、家族が必要とする論点を網羅しました。医療情報の最新運用は主治医・訪問診療医・薬剤師にご確認ください。
在宅医療とは|全体像をつかむ
「通院できなくなった人を支える医療」
在宅医療とは、通院が難しい方に対して、医師・看護師・薬剤師・リハビリ職などが自宅を訪問して提供する医療サービスの総称です。次のようなケースで利用されます。
- 歩行が困難で外来通院できない
- 退院後すぐに通院再開が難しい
- がん末期で在宅看取りを希望
- 難病・神経難病で通院負担が重い
- 認知症で通院に強い不安がある
在宅医療を支える主なサービス
| サービス | 担当職種 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 訪問診療 | 医師 | 計画的・定期的な診察 |
| 往診 | 医師 | 急変・臨時時の単発訪問 |
| 訪問看護 | 看護師 | 医療処置・健康管理・服薬支援 |
| 訪問薬剤管理指導 | 薬剤師 | 薬の管理・配薬・服薬指導 |
| 訪問リハビリテーション | 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士 | 機能訓練・嚥下リハ等 |
| 居宅療養管理指導 | 医師・歯科医師・栄養士・薬剤師 | 療養上の管理・指導 |
これらは別個に契約しますが、同じ訪問診療医のチームでまとまっていることが多く、家族が個別に手配する必要はありません。
医療保険と介護保険の使い分け
在宅医療は医療保険と介護保険の両方を使うのが特徴です。基本ルールは次の通り。
| 保険 | 主な対象 |
|---|---|
| 医療保険 | 訪問診療・往診・訪問看護(特定要件時)・訪問薬剤管理指導 |
| 介護保険 | 訪問看護(要介護認定者)・訪問リハビリ・居宅療養管理指導 |
同じ訪問看護でも、介護保険適用と医療保険適用では算定方法・自己負担額が変わります。家族側で判断する必要はなく、ケアマネ・訪問看護ステーション・主治医が状況に応じて切り替える仕組みになっています。
訪問診療と往診の違い|よく混同される論点
訪問診療|計画的に「定期訪問」する仕組み
訪問診療は、通院困難な患者に対して計画的・定期的に医師が訪問する仕組みです。事前に診療計画を立て、原則として月2回以上の定期訪問が基本です。
- 事前に契約と訪問計画の作成が必要
- 月2〜4回(状態により異なる)の定期訪問
- 慢性疾患の管理・薬の処方・健康チェック
- 家族の不安や生活面の相談にも対応
- 看取り期は訪問頻度が増える
往診|急変・臨時に「単発訪問」する仕組み
往診は、患者やその家族からの依頼に応じて臨時・単発で医師が訪問する仕組みです。発熱・痛み・容態の急変など、その都度の症状に対応します。
- 事前契約は必須ではない(ただし関係性のある主治医が望ましい)
- 依頼があったときのみ訪問
- 急変・発熱・痛みの増悪等への対応
- 時間外の往診には別途加算がつく
多くの家庭は「訪問診療+必要時の往診」の組み合わせ
在宅療養を続けるご家庭の標準的な形は、訪問診療を契約しつつ、急変時には同じ医師に往診を依頼するというパターンです。
| 項目 | 訪問診療 | 往診 |
|---|---|---|
| 訪問の性質 | 計画的・定期的 | 臨時・単発 |
| 頻度 | 月2〜4回 | 必要時のみ |
| 事前契約 | 必要 | 不要(関係性は重要) |
| 主な目的 | 慢性疾患管理・看取り | 急変対応 |
| 料金体系 | 月単位の管理料あり | 1回ごとの請求 |
在宅療養支援診療所と24時間対応
「在宅療養支援診療所」という制度上の枠組み
厚生労働省は、在宅医療を担う医療機関の質を担保するため「在宅療養支援診療所」という届出制度を設けています。要件は次の通り。
- 24時間連絡を受ける体制が整備されている
- 24時間往診が可能な体制
- 24時間訪問看護が可能な体制(連携でも可)
- 緊急時の入院先を確保している
- 看取り実績の報告
さらに上位の「機能強化型在宅療養支援診療所」もあり、複数医師の常勤配置・年間看取り実績などより厳しい要件を満たします。在宅看取りを希望する場合、機能強化型の在宅療養支援診療所を選ぶと安心です。
24時間対応がなぜ重要か
在宅で療養していると、必ず夜間や休日に「これは救急車を呼ぶべきか?」と迷う場面が来ます。24時間対応の窓口があれば、まず電話で相談でき、必要なら往診や訪問看護で対応してもらえます。
逆に24時間対応のない診療所と契約していると、夜間の急変時にすべて救急車を呼ぶことになり、本人にとっても家族にとっても負担が大きくなります。在宅看取りを目指すなら24時間対応の医療機関は必須と考えてください。
訪問看護ステーションの役割と選び方
訪問看護ができること
- バイタルチェック・健康状態の観察
- 褥瘡(床ずれ)の処置
- 在宅酸素療法・人工呼吸器の管理
- 点滴・注射・カテーテル管理
- 胃ろう・経管栄養の管理
- 緩和ケア(がん末期等)
- 服薬管理・配薬
- 家族介護者への指導・相談
- 看取り期のケア
訪問看護師は医療と介護の橋渡し役として最も重要なポジションを担います。「どの薬をいつ飲ませるか分からない」「褥瘡ができた」「呼吸が苦しそう」といった日常の不安に最も近い距離で対応してくれる存在です。
訪問看護ステーションの選び方|7つのポイント
- 24時間対応体制加算を算定しているか(夜間休日の電話相談・緊急訪問)
- 看護師・理学療法士などの職員数(規模が大きいほど休みでも対応可)
- 訪問可能エリア(自宅から30分以内が目安)
- 得意分野(がん緩和ケア・難病・認知症・小児等)
- 訪問診療医との連携実績(同じチームでケアできるか)
- 看取り対応の実績(年間看取り件数を聞ける)
- 緊急時の連絡フロー(電話する番号・対応時間を最初に確認)
ケアマネが紹介してくれるが、家族の希望も伝える
訪問看護ステーションは通常、ケアマネジャーが地域の事業所から候補を提案してくれます。ただし以下の場合は家族から希望を伝えてください。
- 知人から評判を聞いている事業所がある
- 退院時に病院から紹介された事業所を継続したい
- 病気の特性上、専門性の高い事業所を希望(がん緩和ケアなど)

在宅医療の費用|医療保険と介護保険の自己負担
訪問診療の費用目安
訪問診療は医療保険適用です。1割負担の方を例に、月の自己負担額の目安は次の通り。
| 項目 | 1割負担の自己負担目安(月額) |
|---|---|
| 在宅時医学総合管理料(月2回以上訪問) | 約3,500〜5,000円 |
| 訪問診療料(1回あたり) | 約800〜900円 ×訪問回数 |
| 看取り加算・各種加算 | 状態により |
月2回訪問の場合、訪問診療の月額自己負担はおおむね5,000〜8,000円程度。これに薬剤費・検査費・往診費などが加わります。
訪問看護の費用目安
訪問看護は介護保険・医療保険のどちらで利用するかで料金体系が変わります。
- 介護保険(要介護認定者):1回30〜60分で約470〜820円(1割負担)
- 医療保険(特定疾病等):週3回までを基本に、1回あたり数千円規模
- 24時間対応体制加算:月600円程度(介護保険1割)
高額療養費・高額介護サービス費が両輪
在宅医療では医療費・介護費が同時に発生するため、高額療養費(医療)と高額介護サービス費(介護)がそれぞれ自己負担を抑える役割を果たします。さらに年単位では高額医療・高額介護合算療養費で天井が設定されます。

在宅医療を支える多職種チーム
関わる主な職種
| 職種 | 主な役割 |
|---|---|
| 訪問診療医 | 医療の中心。チーム全体の方針を決定 |
| 訪問看護師 | 日常の医療管理・処置・家族指導 |
| 訪問薬剤師 | 薬の配薬・一包化・服薬指導 |
| 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士 | リハビリ・嚥下訓練 |
| 歯科医師・歯科衛生士 | 口腔ケア・嚥下機能維持 |
| 管理栄養士 | 在宅での栄養管理・嚥下食指導 |
| ケアマネジャー | サービス全体の調整役 |
| 訪問介護員(ヘルパー) | 身体介護・生活援助 |
家族はチームの「司令塔」ではなく「メンバー」
多職種チームは「家族が中心となってマネジメントするもの」ではないと覚えておいてください。司令塔役は訪問診療医とケアマネで、家族はチームの一員として情報共有に参加する立場です。
家族がやるべきことは次の3つに絞られます。
- 本人の様子(食欲・睡眠・排泄・痛みなど)を観察し、訪問時に伝える
- 急変時にまず誰に連絡するか、優先順位を共有しておく
- 本人の意向(延命・看取りの希望など)を医療職と共有する
「全部自分で抱え込む」と感じたら、それはチームに情報共有が足りていないサインです。
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在宅医療を始めるまでの流れ
退院前から動き出すのが理想
急性期病院に入院中なら、退院前カンファレンスに在宅医療側を参加させてもらうのが理想です。流れは次の通り。
- 入院中:医療相談員(MSW)に「退院後は在宅で療養したい」と相談
- 退院前カンファレンス:訪問診療医・訪問看護ステーション・ケアマネが参加
- 退院日に合わせて訪問診療・訪問看護を開始
- 退院から1〜2週間以内に多職種で初回訪問
在宅療養中から始める場合
すでに自宅にいて「通院が難しくなってきた」場合は、かかりつけ医とケアマネに相談するのが入口です。
- かかりつけ医に通院困難の状況を相談
- かかりつけ医自身が訪問診療を行う場合はそのまま継続
- 行わない場合は、地域の訪問診療医を紹介してもらう
- ケアマネと並行して訪問看護ステーションを選定
地域包括支援センターも入口になる
「かかりつけ医がいない」「ケアマネがまだいない」という場合は、地域包括支援センターに電話してください。地域の在宅医療資源を把握しており、適切な医療機関を紹介してくれます。

在宅医療でよくある悩みと現場の対応例
急変が怖い|「救急車を呼ぶか迷う」とき
在宅看取り期には「呼吸が苦しそう」「血圧が低い」など、家族が判断に迷う場面が来ます。判断の優先順位は次の通り。
- まず24時間対応の訪問看護ステーションに電話(看護師の判断を仰ぐ)
- 必要に応じて訪問看護師が緊急訪問または訪問診療医に連絡
- 救急搬送が必要なら看護師が救急要請または家族に判断を委ねる
「救急車か電話か」迷ったらまず電話。これだけで家族の負担は劇的に軽くなります。
夜間に薬が足りなくなった
訪問薬剤師と契約していれば、緊急対応で配薬してくれる場合があります。事前に「夜間に薬がなくなったらどうするか」を主治医・薬剤師に確認しておきましょう。
本人が病院に行きたがらない
認知症等で病院通院を強く拒否する方には、訪問診療が極めて有効です。「家にいながら医療を受けられる」と本人に伝えるだけで、安心感が大きく変わります。
家族が疲弊してきた
在宅看取りは家族が燃え尽きやすい場面でもあります。レスパイト目的のショートステイや、訪問看護の頻度を増やすなど、家族の休息も組み込んだケアプランに再設計しましょう。


介護福祉士から見た|在宅医療がうまくいく家族の共通点
介護福祉士 SEDO(経験7年)
在宅看取りに何度も立ち会わせてもらいましたが、最後まで穏やかに過ごせたご家族には3つの共通点がありました。
- 24時間対応の在宅医療チームを早めに組んでいる:「いざというとき誰に電話するか」が明確
- 本人の意向を家族・医療職で共有できている:延命の希望・看取りの場所が言語化されている
- 家族が「分担」を受け入れている:すべて自分でやろうとせず、看護師・ヘルパーに任せられる
逆につらくなりがちなのは、夜間に救急要請を繰り返すご家庭。これは家族の問題ではなく、24時間対応の体制を組めていないことが原因です。在宅医療を始めるなら、最初に「24時間体制があるか」を必ず確認してください。
また、訪問看護師との関係性は信頼の核心です。「困ったときに電話していい」と心から思える関係を築くと、看取りの最終局面でも家族は孤立しません。遠慮しすぎず、不安を率直に伝えることがチーム医療を機能させます。
まとめ|在宅医療は「お任せ」ではなく「共に動かす」
在宅医療の選択肢を整理します。
- 計画的な医療管理は訪問診療(月2回以上)
- 急変対応は往診(必要時単発)
- 日常の医療処置・健康管理は訪問看護(24時間対応推奨)
- 薬は訪問薬剤管理、リハビリは訪問リハで補完
- 司令塔は訪問診療医とケアマネ、家族はチームの一員
在宅医療を選ぶ最大の意味は、本人が住み慣れた場所で過ごし続けられることです。「家で最期を迎えたい」という希望は、24時間対応の医療チームと、家族・多職種の連携があれば現実にできます。
不安があれば、まずはかかりつけ医・地域包括支援センター・ケアマネに電話一本。在宅医療は「お任せ」ではなく、家族と医療職が一緒に動かしていく仕組みです。
▶ 次のステップ
・看取り介護とACPで本人の意向を整理 → 看取り介護とACP(人生会議)
・在宅介護サービスとの併用 → 介護費用の総額シミュレーション
・地域包括支援センターに相談 → 地域包括支援センターの使い方
・ショートステイで家族の休息を確保 → ショートステイ完全ガイド
よくある質問
Q:訪問診療と往診はどう違いますか?
A:訪問診療は計画的・定期的に医師が自宅を訪問する仕組みで、月2回程度の定期訪問が基本です。一方、往診は急変や臨時の症状に応じて単発で訪問する仕組みで、依頼があったときだけ訪れます。在宅で療養する方は通常「訪問診療を契約しつつ、急変時には往診も対応してもらう」という組み合わせが一般的です。訪問診療を受けている医療機関は24時間連絡窓口を設けていることが多く、夜間・休日の急変にも電話相談や往診で対応します。
Q:訪問看護は介護保険と医療保険のどちらで使いますか?
A:原則として、要介護認定を受けている方は介護保険、特定疾病該当者・末期がん・精神疾患等の方や急性増悪時は医療保険が適用されます。両方の保険を同時に使うことはできませんが、状況に応じて切り替えが行われます。たとえばがん末期で在宅看取りに移行した時点で、介護保険から医療保険の訪問看護に切り替わるケースが多くあります。判断はケアマネ・訪問看護ステーション・主治医が連携して行うため、家族側で迷う必要はありません。
Q:24時間対応の訪問診療・訪問看護とは何ですか?
A:24時間電話で連絡が取れて、必要があれば夜間・休日でも往診や緊急訪問に対応する体制です。在宅医療では「在宅療養支援診療所」として届出した医療機関、訪問看護では「24時間対応体制加算」を算定するステーションがこの体制を持ちます。在宅看取りや状態が不安定な方に必須の機能で、「夜中に呼吸が苦しそう」「朝から熱が高い」といった場面で家族が救急車を呼ぶか迷ったときの相談先になります。在宅療養を選ぶなら24時間対応の有無を必ず確認してください。
📚 出典・参考
・厚生労働省「在宅医療の推進について」
・厚生労働省「在宅療養支援診療所の届出基準」
・厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法」
・日本在宅医療連合学会
・全国訪問看護事業協会
・診療報酬・介護報酬改定資料(2024年改定)
※医療情報は2026年4月時点の一般的な解説です。診断・治療・在宅医療の選択は主治医・訪問診療医・薬剤師にご相談ください。


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