「夫の介護を、私が一人で見ているんです」
78歳の妻、要介護3の80歳の夫。地域包括支援センターから紹介されてご相談に来られた奥様の手は、すでに細く震えていました。
これは決して珍しいケースではありません。厚生労働省の調査では、在宅介護世帯のうち介護する側もされる側も65歳以上の「老老介護」は約6割、75歳以上同士の「超老老介護」も約3割に上ります。
本記事では、介護福祉士として老老介護のご家族と多く関わってきた経験をふまえ、2026年4月時点の制度と現場感覚から、老老介護の現実・共倒れを防ぐ方法・使える制度・遠方の子ができる支援を整理します。介護うつのサインがあれば心療内科・精神科への受診をご検討ください。
老老介護の現実|数字が示すもの
「珍しいケース」ではなく「主流」
厚生労働省「国民生活基礎調査」の主な数字(直近):
- 主介護者が65歳以上の世帯:約6割
- 主介護者・被介護者ともに75歳以上:約3割(超老老介護)
- 主介護者・被介護者ともに60歳以上:約7割
つまり、「老老介護はうちだけ」ではありません。在宅介護のスタンダードな形と言っていいほど多い状態です。
主介護者の8割が女性
主介護者の約65〜70%が女性(妻・娘)で、その多くが配偶者を支えています。男性が妻を介護するケースも増えていますが、まだ少数派です。
共倒れリスクが高い構造
老老介護に共通する3つのリスク。
- 介護者本人が要介護予備軍:本人の体力・認知機能も低下
- 身体介護で介護者が骨折・腰痛:移乗・入浴介助で介護者が怪我
- 介護者が先に亡くなる/倒れる:被介護者の生活が一気に崩壊
「夫婦で支え合う」と聞こえはいいですが、片方が倒れたら両方が一気に困窮するのが老老介護の構造です。
限界が近いサイン|現場で見てきたチェックリスト
次のサインが3つ以上当てはまるなら、すぐに地域包括支援センター・ケアマネに相談してください。
介護者の身体面
- 慢性的な腰痛・肩こりがある
- 夜中に何度も起こされて睡眠が断片化
- 食事が不規則・体重減少
- 自分の通院を後回しにしている
- 持病の薬を飲み忘れることが増えた
介護者のメンタル面
- 「もう疲れた」と頻繁に思う
- 被介護者に強く当たってしまう
- 笑うことが減った
- 「一緒に死にたい」と思うことがある
- 家から出るのが億劫になった
生活全体
- 家事が回らない(食事・掃除・洗濯)
- 近所付き合い・友人関係が途絶えた
- お金の管理が不確かになってきた
- 近所の方から「最近顔色悪いね」と言われた
⚠️ 希死念慮があるとき
「一緒に死にたい」「いっそ、もう」と感じているなら、緊急的に医療機関を受診してください。
・よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・無料)
・いのちの電話:0120-783-556
・地域包括支援センターに電話
迷ったら救急受診。あなたが倒れたら、配偶者も守れません。
老老介護で使える制度を「全部」使う
介護保険サービスの最大化
「自分でできるから」とサービスを抑え気味にしているご家族が多いですが、老老介護では使えるものは全部使うのが原則です。
- 訪問介護(ホームヘルプ):身体介護・生活援助
- 訪問看護:医療面のサポート+家族の相談相手
- デイサービス:週3〜5回入れて介護者の休息を確保
- デイケア:リハビリ目的
- ショートステイ:月1〜数日の定期利用
- 福祉用具レンタル:介護ベッド・車椅子で身体介助の負担を減らす
- 住宅改修:手すり・段差解消(上限20万円)
小規模多機能型居宅介護を検討
「通い・訪問・泊まり」を1つの事業所が一括提供する小規模多機能型居宅介護(小多機)は、老老介護に特に向いています。
- 月額定額で柔軟にサービスを切り替え可能
- 同じスタッフがすべて担当するので安心
- 夜間の泊まりも気軽に利用できる
状態が変動しやすい老老介護の現場では、小多機の柔軟性が大きな助けになります。
介護者本人の医療・福祉も
介護者本人が高齢者なので、本人の健康管理も忘れずに。
- 定期健康診断・特定健診
- 持病の通院
- 介護者向けのレスパイト制度(自治体独自)
- シルバー人材センターの家事支援
- 配食サービス(自治体独自・有料)
遠方の子ができる「4本の支援」
離れて暮らす子の役割は、現地に住む親の負担を補う上で決定的です。
現地ケアマネとの定期連絡
- 月1回、ケアマネに電話して両親の状況を聞く
- ケアプランの相談に同席(電話会議で可)
- ケアマネに自分の連絡先を共有
遠方の子がケアマネと信頼関係を作っておくと、何かあったときの初動が早くなります。
経済的支援
- 介護費用の一部を負担(兄弟で按分も可)
- 仕送りの形で生活費を補填
- 本人の通信費・新聞代等を肩代わり
- 介護タクシーや配食サービスを子の負担で導入
親の年金で足りない部分を子が負担するパターンは多いですが、公的支援を全部使い切った上で判断してください。

情報整理と意思決定の支援
- 親の経済・医療情報を文書化(通帳・年金・保険・かかりつけ医)
- 緊急連絡先リストの作成
- ACP(人生会議)の話し合いをリード
- 兄弟姉妹間の分担協議
現地の親が高齢で書類整理が難しい場合、子が情報を一元化するのは大きな助けになります。
定期的な帰省
- 月1〜数か月に1回は帰省
- 帰省時に介護者(親)の様子をじっくり観察
- 本人だけでなく介護者の心身も見守る
- 帰省時にショートステイを入れて夫婦に時間をプレゼント
「物理的に近くにいないから無力」ではなく、「離れているからこそ客観的に見える」ことがあります。

施設入所を考えるタイミング
「在宅か施設か」は感情論ではなく合理判断
老老介護で「施設に入れるのは申し訳ない」と感じるご家族は多いです。けれど、客観的に考えてください。
- 介護者が倒れたら、両方が困窮
- 共倒れより、片方が施設で安全に過ごせる方が両者にとって良い
- 夫婦で同じ施設に入所する選択肢もある
- 施設に入っても、面会・外出で関係性は続けられる
感情論ではなく、「夫婦両方の人生の質」で判断する視点を持ってください。
夫婦で入れる施設の選択肢
- サービス付き高齢者向け住宅:夫婦部屋がある事業所多数
- 住宅型有料老人ホーム:要介護度差がある夫婦も対応可
- 介護付き有料老人ホーム:要介護度が高い方も対応
- シニアマンション:自立度が高い夫婦向け

介護福祉士から見た|老老介護を続けられた家族
介護福祉士 SEDO(経験7年)
老老介護のご家族で、共倒れせずに何年も続けられたケースに共通する3つの特徴があります。
- 「使えるサービスは全部使う」と決めている:罪悪感や遠慮で抑え込まない
- 遠方の子と定期的に情報共有している:1人で抱えない構造を作る
- 介護者自身の健康管理を最優先している:自分の通院を欠かさない
逆に共倒れに至ったご家族の多くは、
- 「夫婦のことは夫婦で」と外の支援を拒む
- 子に迷惑をかけたくないと頑張りすぎる
- 近所付き合いを避けて孤立する
といったパターン。本人たちの責任感の強さが、結果として両方を追い詰めてしまいます。
老老介護は、「自分(介護者)が壊れないことが、最大の被介護者支援になる」ことを忘れないでください。
まとめ|「夫婦で頑張る」を「夫婦で生き延びる」に
本記事の要点を整理します。
- 老老介護は在宅介護の主流形態(約6割)
- 共倒れリスクが高いため「介護者本人の健康最優先」が原則
- 限界のサイン(身体・メンタル・生活)が3つ以上重なったら相談
- 介護保険サービスを最大限活用。罪悪感は手放す
- 小規模多機能型居宅介護は老老介護に特に向く
- 遠方の子は連絡・経済・情報・帰省の4本柱で支える
- 夫婦で入れる施設も検討する
「夫婦で支え合う」のは美しい姿ですが、それだけで何年も続けるには限界があります。「夫婦で生き延びる」に視点を変えて、地域・行政・子の力を借りてください。
地域包括支援センターに電話1本。それが、老老介護を持続可能にする最初の一歩です。
▶ 次のステップ
・在宅介護が限界と感じたら → 在宅介護が限界と感じたら読む記事
・介護うつのサインと予防 → 介護うつのサインと予防
・ショートステイで休息確保 → ショートステイ完全ガイド
・地域包括支援センターに相談 → 地域包括支援センターの使い方
よくある質問
Q:老老介護とは何歳以上の介護を指しますか?
A:老老介護は、65歳以上の高齢者が65歳以上の高齢者を介護している状態を指します。厚生労働省の国民生活基礎調査では、在宅介護世帯のうち介護する側・される側がともに65歳以上の世帯は約6割、75歳以上同士の「超老老介護」も約3割と報告されており、決して珍しい状態ではありません。多くは夫婦間の介護で、配偶者を支えるパターンが中心。本人も高齢で体力・認知機能が低下しているため、共倒れリスクが高く、家族・地域・行政の支援が決定的に重要になります。
Q:老老介護で共倒れを防ぐためにできることは?
A:最も重要なのは「介護者自身の心身の健康を最優先する」ことです。具体的には、①介護保険サービスを最大限活用してレスパイト時間を確保、②介護者本人の定期通院を欠かさない、③ショートステイの定期利用で物理的に休む時間を作る、④地域包括支援センターや家族会で相談先を持つ、⑤遠方の子・親族と分担協議をする、の5点。「相手のために頑張る」より「自分が壊れない範囲で続ける」を判断軸にすることが、長く介護を続けるコツです。介護者が倒れたら被介護者も守れなくなります。
Q:遠方の子は老老介護にどう関わればいいですか?
A:遠方の子ができる支援は、現地ケアマネとの連携・経済的支援・情報整理・定期的な帰省の4本柱です。具体的には、①親のケアマネに月1回電話して状況を聞く、②介護費用の一部を負担する、③親の経済・医療情報を整理して共有、④月1〜数か月に1回は帰省して両親と過ごす時間を作る。「物理的に近くにいないから無力」ではなく、「離れているからこそできる役割」があります。最も避けるべきは、現地の親に丸投げで何もしないこと。親の介護方針について遠方から口だけ出すのも禁物です。
📚 出典・参考
・厚生労働省「国民生活基礎調査」(介護関連項目)
・厚生労働省「介護保険制度の概要」
・公益社団法人 認知症の人と家族の会
・全国地域包括支援センター協議会
・各市区町村「家族介護者支援事業」関連資料
※介護うつ・希死念慮が疑われる場合は、心療内科・精神科への受診をご検討ください。情報は2026年4月時点の一般的な解説です。


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