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看取り介護とACP(人生会議)

介護現場の実践・ノウハウ

「親を看取る」――その時が来ることは分かっていても、いざ迎えるとなると家族は何をどう準備すればいいか分からないものです。看取り介護は、本人の最後の人生をどう支えるか、家族としてどう寄り添うかを問う、人生の中でも特別な時期です。

厚生労働省が2018年から推進するACP(人生会議)は、本人の意思を尊重した最期を実現するための取り組みです。介護福祉士として施設で多くの看取りに関わってきた経験から、家族が後悔しない選択をするための知識を整理します。なお、医療判断は必ず主治医・訪問診療医・緩和ケア専門職にご相談ください。

看取り介護とは

病院・施設・在宅 それぞれの看取り

看取り介護は、人生の最期を迎える時期(数週間〜数か月)に提供される、苦痛緩和と尊厳を支えるケアの総称です。看取りの場所は大きく3つに分かれます。

場所割合(2023年厚労省統計)特徴
病院約65〜70%医療管理が手厚いが、本人の希望と離れがち
自宅約16%(増加傾向)本人の希望が叶いやすいが、家族負担大
介護施設約13%看取り対応の特養・グループホームが増加

近年、政策的に在宅・施設看取りが増える方向にあります。家族はどの場所が本人にとって最善かを、早めに考える必要があります。

延命治療と緩和ケアの違い

  • 延命治療:心肺蘇生、人工呼吸器、人工透析、経管栄養など、寿命を延ばすことを目的とした医療
  • 緩和ケア:痛み・苦しみ・不安を和らげることを目的としたケア。延命を主目的としない

どちらが正しいかではなく、本人がどちらを望むかが判断基準です。本人の意思が分からないと、家族が苦しい決断を迫られることになります。

「家で最期を」は2割しか実現していない現実

各種調査では、6〜7割の方が「自宅で最期を迎えたい」と希望しています。しかし実際に自宅で亡くなる方は約16%。多くの方の希望が叶っていないのが現実です。

原因は「家族の負担」「24時間対応の在宅医がいない」「急変時に救急車を呼んでしまう」などが代表的。これらは事前の体制づくりで解決できる課題ばかりです。

ACP(人生会議)とは

厚生労働省が推進する取り組み

ACP(Advance Care Planning)は、もしものときに備えて本人が望む医療・ケアについて、本人・家族・医療介護関係者で前もって話し合うプロセスです。厚生労働省は2018年に「人生会議」という愛称を定め、国民への啓発を進めています。

ACPは「終活」とは少し違います。終活が手続き・財産整理を含む広い概念であるのに対し、ACPは医療・ケアに関する本人の希望に焦点を当てます。

本人・家族・医療介護職の3者で進める

ACPは1人で考えて終わりではなく、関係者で繰り返し話し合うのが特徴です。

  • 本人:自分の価値観と希望を表明する
  • 家族:本人を支える人として理解する
  • 医療職:医学的な見通しと選択肢を伝える
  • 介護職・ケアマネ:日常生活の希望と現実を共有する

一度決めたら終わりではない(更新する)

本人の考えは時間とともに変わります。「元気なときは延命を望んだが、病気を経て考えが変わった」というケースは現場でも多く見られます。

ACPは定期的に見直すのが原則。年1回、または病状や生活環境が変わったタイミングで話し合いを更新してください。

ACPで話し合う5つのこと

価値観・大切にしていること

医療判断の前に、本人が人生で何を大切にしているかを共有します。

  • 仕事への思い、趣味、家族への想い
  • 「こうありたい自分」のイメージ
  • 耐えがたい状態(例:寝たきり、言葉が話せない、痛み)
  • 受け入れられる状態

病状が悪化したときの治療希望

  • がんが進行したらどこまでの治療を希望するか
  • 意識が戻らない状態になったとき
  • 食事が取れなくなったとき

心肺蘇生・人工呼吸器の希望

心臓が止まったときに胸骨圧迫・電気ショック・気管挿管を行うか、行わないかを決めておきます。DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)と呼ばれる事前指示です。

⚠️ 救急車と延命処置

本人がDNARを希望していても、家族が救急車を呼ぶと救命処置が始まります。在宅看取りを希望する場合は、急変時に救急車を呼ばず訪問診療医に連絡する手順を家族で共有しておくことが重要です。事前に医師との「予期される死亡」の取り決めも必要になります。

経管栄養・胃ろうの希望

食事が取れなくなったときに、胃ろう・経鼻経管・点滴で栄養補給を続けるか否かは大きな選択です。一度始めると中止が難しい現実があるため、始める前に本人の意思を確認することが不可欠です。

最期を迎えたい場所

  • 自宅
  • かかりつけの病院
  • 緩和ケア病棟(ホスピス)
  • 住み慣れた施設(特養・グループホーム)

選んだ場所によって必要な体制が変わります。希望が決まれば、それを実現するためのサービス調整が始まります。

話し合いを始めるタイミング

本人が元気なうちに(最重要)

判断能力が落ちてからでは、本人の意思が確認できなくなります。元気で話せるうちに始めるのが鉄則です。

「縁起でもない」と先延ばしにしがちですが、判断能力が落ちてから「お父さんはどうしたい?」と聞いても答えてもらえません。家族間で意見が割れる原因にもなります。

入院・診断のタイミング

がん告知、認知症診断、心不全悪化、慢性疾患の進行など、医師から病状の見通しが伝えられたタイミングは、自然に話を切り出しやすい時期です。

ケアマネとの定期面談で

すでに介護サービスを利用している方は、ケアマネとの定期面談で「もしものときの希望」を話題にすることもできます。ケアマネは多くの看取りに関わっており、家族と本人をつなぐ役割を担えます。

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家族として進めるコツ

「もしも」の話を切り出す言い方

切り出し方の例:

  • 「テレビで人生会議の話をやっていたんだけど、お母さんはどう思う?」
  • 「最近◯◯さんが亡くなったんだけど、お父さんはどんな最期がいい?」
  • 「もし元気じゃなくなったら、家がいい?病院がいい?」
  • 「治療できなくなる時のために、聞いておきたいんだ」

暗くならないよう、日常会話の中に少しずつ織り込むのがコツ。1度で全部聞こうとせず、何度かに分けて話してください。

兄弟姉妹間で意見が割れたときの対応

看取りの場面で家族の意見が割れることはよくあります。「延命してほしい」「自然に任せたい」と兄弟で対立するケースも多いです。

解決策は「本人の意思を最優先する」という共通ルールを最初に確認すること。家族の感情ではなく、本人の言葉に立ち返ることで対立は和らぎます。本人の意思が文書で残っていれば、なお迷いません。

専門職を交えた話し合いの効用

家族だけで話すと感情的になりがちですが、ケアマネ・訪問看護師・主治医を交えると事実ベースで話を進められます。多くの自治体・病院で「ACP支援」を行っているので、活用してください。

看取り期に変化する身体のサイン

看取り期の数週間〜数日には、身体に特徴的な変化が現れます。これらは病気の悪化ではなく、自然な過程です。家族が知っておくと慌てずに見守れます。

食欲・水分摂取の低下

亡くなる数週間〜数日前から食事・水分が減ります。これは身体が機能を落として穏やかに終わる過程の一部。「食べさせなければ」と焦らないでください

無理に食べさせると、誤嚥や腹部の張りで本人の苦痛を増やすことがあります。口を湿らす、好きなものを少量、で十分なケアになります。

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呼吸の変化

  • チェーンストークス呼吸:浅い呼吸と深い呼吸を繰り返す。看取り期に多い
  • 下顎呼吸:顎を動かすような呼吸。亡くなる直前の数時間に出る
  • 死前喘鳴(しぜんぜんめい):喉でゴロゴロと音がする。本人は苦しくないことが多い

呼吸の変化は家族には辛く見えますが、本人が苦しんでいるとは限らないのが医学的な見解です。訪問看護師や訪問診療医に状況を伝えれば、必要に応じてケアしてもらえます。

意識レベルの低下

傾眠(うとうとしている)、呼びかけへの反応の低下、最終的には目を閉じたまま過ごす時間が増えます。これも自然な経過です。

耳は最後まで聞こえているとされるので、家族の声かけは本人にちゃんと届いています。

家族が落ち着いて見守るために

  • 変化を訪問診療医・訪問看護師に伝え、安心の確認を得る
  • 家族で交代しながら付き添う(無理しない)
  • 本人の好きな音楽を流す、手を握る、声をかける
  • 家族の食事と睡眠も確保する

在宅看取りを支えるサービス

訪問診療・訪問看護

在宅看取りの中心は訪問診療医(主治医)と訪問看護師です。

  • 訪問診療医:定期訪問+急変時の往診。死亡確認・死亡診断書作成
  • 訪問看護:医療処置、症状観察、家族支援。24時間対応のステーションも

地域包括支援センターやケアマネ経由で、在宅看取りに対応している事業者を紹介してもらえます。

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24時間対応の体制

在宅看取りでは、夜間・休日の急変に対応できる24時間体制が必須です。

  • 訪問診療医の24時間オンコール
  • 訪問看護ステーションの24時間連絡先
  • 家族同士の交代体制

ターミナル加算

介護保険にも看取りを支える加算があります。

  • 看取り介護加算(特養・グループホーム)
  • ターミナルケア加算(訪問看護)
  • 在宅看取り加算(居宅介護支援)

これらの加算がある事業所は看取りに対応する体制と経験を持っている目安になります。

施設での看取り|選ぶ際のチェック

看取り対応可の有無

すべての施設が看取り対応をしているわけではありません。施設選びの段階で「看取り介護加算」の算定の有無を確認してください。算定している施設は看取り対応の体制が整っています。

看護体制と医療連携

  • 看護師の配置時間(夜間も常駐か)
  • 提携医療機関の有無
  • 過去の看取り実績
  • 家族との連携方針(最期に立ち会えるか)

これらは見学・面談で必ず確認してください。

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介護福祉士から見た|本人の意思が伝わったご家族の安らぎ

介護福祉士 SEDO(経験7年)

看取りの場面で、ご家族の表情が穏やかな方とそうでない方には決定的な違いがあります。それは「本人の意思が事前に共有されていたかどうか」です。

本人の意思が分からないまま看取りを迎えると、家族は次のような苦悩に直面します。

  • 「これで良かったのか」という後悔
  • 兄弟間の意見対立
  • 延命するか否かの即断を迫られる重圧
  • 「もっと話しておけば良かった」という喪失感

逆に、ACPで本人の希望を共有できているご家族は、看取りの瞬間に「お父さんが望んだ通りに送れた」という安らぎを持てます。これは本人にとっても家族にとっても、大きな違いです。

「縁起でもない」と先延ばしにせず、元気なうちに少しずつ話し始めてください。

まとめ|「死」ではなく「最後まで生きる」を支える

看取り介護は「死」を支える行為ではなく、「最後まで本人らしく生きる」を支える行為です。家族としてできることは次の4つです。

  1. 本人が元気なうちにACPを始める:価値観・希望・場所を共有
  2. 意思を文書化する:家族・医療職と共有しておく
  3. 看取り期の身体変化を理解する:自然な過程として受け止める
  4. 専門職とつながる:訪問診療・訪問看護・ケアマネを早めに

本人の最期を本人らしく送ることは、残された家族にとって何よりの癒しになります。今日からできる一歩は、食卓で「もしも」の話を1つだけ聞いてみることから始めてください。

▶ 次のステップ

・在宅介護サービス(訪問診療・訪問看護) → 在宅介護サービスの種類と選び方
・施設の種類(看取り対応含む) → 介護施設の種類をわかりやすく解説
・ケアマネの選び方 → ケアマネジャーの選び方・探し方
・在宅介護が限界と感じたら → 在宅介護が限界だと感じたときに考えるべき選択肢

在宅看取りを支える医療体制

在宅で看取るには、24時間対応の訪問診療・訪問看護の組み合わせが鍵になります。具体的な選び方と費用感は次の記事で整理しています。

在宅医療の使い方完全ガイド|訪問診療・往診・訪問看護の違いと費用【2026年版】
在宅医療の仕組みを介護福祉士が2026年最新情報で解説。訪問診療と往診の違い、 訪問看護ステーションの選び方、24時間対応の意味、費用・医療保険と介護保険の 使い分け、依頼までの流れまで、家族が知りたい論点を整理しました。

よくある質問

Q:ACP(人生会議)はいつ始めるべきですか?
A:本人が元気で判断能力があるうちに始めるのが理想です。とくに入院・がん告知・認知症診断・配偶者との死別・施設入所などの「人生の節目」がきっかけになります。話し合いは一度きりではなく、本人の状態や考えが変わるたびに更新します。「縁起でもない」と先延ばしにするご家族が多いですが、判断能力が落ちてからでは本人の意思が確認できません。元気なうちこそ意味のあるタイミングです。

Q:家で最期を迎えたいと本人が希望していますが、家族にできますか?
A:条件が整えば実現可能です。必要な要素は、24時間対応の在宅医(訪問診療)、訪問看護、ケアマネとの連携、家族の覚悟と体制(複数人で交代)の4つ。在宅看取りはターミナル加算など介護保険の加算もあり、医療と介護の連携で支えます。家族だけで抱え込むと体力的に限界が来るため、地域包括支援センターやMSWに早めに相談し、サービスを最大限組み合わせるのがコツです。

Q:看取り期に食事を取らなくなったのは普通ですか?
A:看取り期の自然な変化です。亡くなる数週間〜数日前から食欲低下・水分摂取の低下が起こり、これは身体が穏やかに最期に向かう過程です。無理に食べさせると誤嚥や苦痛を増やすことがあります。「食べさせなければ」と焦らず、本人が望むものを少量、口を湿らす程度のケアでも十分です。判断に迷うときは訪問診療医や緩和ケア専門職に相談してください。

📚 出典・参考

・厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
・厚生労働省「ACP(人生会議)」普及啓発資料
・厚生労働省「人口動態統計(死亡場所別)」
・日本緩和医療学会「臨床ガイドライン」
※医療・ケアの判断は必ず主治医・訪問診療医・緩和ケア専門職にご相談ください。本記事は2026年5月時点の一般的な解説で、個別判断の代替にはなりません。

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