「子どもが小学校に上がる年に、母が認知症と診断されたんです」
ある日、ご家族から泣きそうな声で電話がありました。37歳の女性。小1の長男、3歳の次男、そして要介護2の母。さらにフルタイムの仕事。
「育児だけでも限界なのに、介護も同時って、何をどうすればいいか分からなくて……」
これが、現代日本で増えている ダブルケアの典型的な姿です。
ダブルケア(育児と介護の同時進行)は、内閣府の調査で推定25万人以上、潜在的には数十万人とされています。30〜40代の女性に集中するこの問題は、家族・職場・社会全体に大きな影響を与えています。
本記事では、介護福祉士としてダブルケアのご家族の支援に関わってきた経験から、2026年4月時点の制度に基づいてダブルケアの現実・使える制度・夫婦の分担・仕事を辞めない選択肢を整理します。メンタル・両立支援は、人事部・社会保険労務士・心療内科などの専門機関にもご相談ください。
ダブルケアの現実|なぜ今、増えているのか
晩婚化・晩産化が生んだ構造
ダブルケアの増加には、明確な社会的背景があります。
- 初婚年齢の上昇(女性30歳前後)
- 第一子出産年齢の上昇(女性31歳前後)
- 親世代の介護発生時期(70〜80代)と子育て期が重なる
- 核家族化で親族間の相互サポートが弱体化
- 女性の社会進出により仕事との両立必要性が増加
つまり、「親の介護が始まる頃に、自分の子もまだ手がかかる」という構造が日本社会に組み込まれています。
該当者の中心は30〜40代女性
内閣府調査では、ダブルケアラーの約7割が女性。年代別では30〜40代に集中。働き盛り・子育てまっただ中の世代が、親の介護も同時に担う構図です。
三重負担の実態
ダブルケアラーが抱えるのは:
- 育児負担:保育園送迎・学校行事・PTA・宿題・習い事・病気対応
- 介護負担:通院付き添い・介護サービス調整・本人の身体介護・ケアマネ連絡
- 仕事の負担:日中の業務・残業・出張・キャリア継続
これに加えて、夫の協力が不十分な場合は家事も全部。心身・経済・キャリアの三重以上の負担となります。
ダブルケアラーが陥りやすい3つの落とし穴
「自分が頑張るしかない」と思い込む
真面目で責任感の強い人ほど、「子と親、両方支えるのは私の役目」と一人で抱え込みます。結果、介護うつ・育児うつ・燃え尽きに直結。
子か親、どちらかを「優先順位」で犠牲にする
「子の運動会に行きたいけど、親の通院もある」「親の入院に付き添うために、子の保育園行事を欠席」——どちらを優先しても罪悪感が残ります。
仕事を辞めてしまう
「両立が無理だから、仕事を辞めよう」が短絡的な結論になることが多いです。しかし離職は、
- 収入減で家計の介護費・教育費を圧迫
- キャリアの中断で再就職困難
- 社会との接点が減りメンタル悪化
- 夫婦間の役割固定化
といった長期的なダメージにつながります。辞める前に、必ず制度活用を検討してください。

ダブルケアで使える制度|育児・介護を組み合わせる
育児側の主な制度
- 育児休業:原則1歳まで(最長2歳まで)、給付金あり
- 育児短時間勤務:小学校就学前まで(会社により拡大あり)
- 子の看護休暇:年5日(子が2人以上は10日)
- 所定外労働の制限:小学校就学前まで残業免除請求権
- 保育園・学童保育:自治体経由で申請
- 病児保育:自治体・民間サービス
介護側の主な制度
- 介護休業:対象家族1人につき通算93日、3回まで分割、給付金67%
- 介護休暇:年5日(対象家族2人以上は10日)
- 介護短時間勤務:3年以上、2回以上
- 所定外労働の制限:残業免除
- 介護保険サービス:訪問・通所・短期入所
- ショートステイ:月1〜数日の定期利用

2025年4月改正で会社の義務が拡充
2025年4月の育児・介護休業法改正で、ダブルケアラーへの支援も強化されました。
- 個別周知・意向確認の義務化(介護に直面した社員に対して)
- 40歳到達時の情報提供の努力義務
- 介護のためのテレワーク導入の努力義務
- 研修・相談体制の整備義務
会社に「ダブルケアで使える制度を全部教えてほしい」と申し出れば、説明と利用支援を受ける権利があります。
育児・介護制度の併用
育児と介護は同時に併用可能。たとえば:
- 朝:育児短時間勤務で保育園送迎
- 昼:通常勤務
- 夕:介護短時間勤務で親の通院送迎
- 月のうち1〜2日:介護休暇で親のショート対応
- 月のうち1〜2日:子の看護休暇で子の通院
各制度は独立しているので、「育児休暇は子の事情、介護休暇は親の事情」と別枠で使えます。
夫婦・親族の分担|「私だけ」を超える
配偶者(夫)の協力が決定的
ダブルケアラーの圧倒的多くが女性。しかし、育児も介護も夫婦両方の課題です。
夫が分担すべき項目(一例):
- 朝の保育園送り or 夕方のお迎え
- 週末の子の習い事の付き添い
- 親の通院付き添い(自分の親なら主担当)
- 家事の半分(食事・洗濯・掃除)
- 緊急時の対応(子の発熱・親の入院)
「夫の親なら夫が」「妻の親なら妻が」の発想
ダブルケアでは、自分の親は自分が主担当を基本にするのが分担しやすい構造になります。
- 夫の親の介護 → 夫が主、妻はサポート
- 妻の親の介護 → 妻が主、夫はサポート
- 育児は夫婦で分担
「嫁が義父母を見るのが当然」という古い価値観は、ダブルケアの時代には機能しません。
兄弟姉妹との分担
- 主介護者と経済支援者・情報共有役を分ける
- 月1回の家族会議
- 遠方の兄弟は経済的支援・帰省時の交代介護
- 主介護者の精神的負担も「分担」する(話を聞く・気にかける)
外部サービスの組み合わせ|ダブルケア×介護保険×育児サービス
介護側のサービス最大化
- デイサービス(週3〜5日):親の日中の居場所+介護者の休息
- ショートステイ(月1〜数日):定期利用で休む時間を確保
- 訪問介護:朝夕の身体介護・通院介助
- 福祉用具レンタル:身体介助の負担を軽減
育児側のサービス最大化
- 保育園の延長保育:18〜20時まで
- 学童保育:小学生の放課後
- 病児保育:子の発熱時
- ファミリーサポート:自治体経由で送迎・預かり
- シルバー人材センターの保育支援
家事の外部化
- 家事代行サービス(週1〜2回)
- 食材宅配(生協・ヨシケイ等)
- ミールキット
- 食洗機・乾燥機付き洗濯機などの家電投資
「お金を出してでも時間を買う」発想で、ダブルケアの負担を物理的に減らしてください。
ダブルケアラーの心身を守る
介護うつ・育児うつのサインを見逃さない
次のサインが2週間以上続き、3つ以上当てはまるなら、すぐ心療内科・精神科を受診してください。
- 朝起きるのがつらい
- 何をしても楽しくない
- 食欲がない、または過食
- 子や親に強く当たってしまう
- 夫婦間の会話が減った
- 「いっそ、もう」と感じる
- 仕事のミスが急に増えた

自分の体調管理を最優先
- 定期健診を欠かさない
- 自分の通院(婦人科・歯科等)を後回しにしない
- 週1回はリラックス時間を確保(カフェ・散歩・趣味)
- 夜の睡眠を確保(夫と分担)
「ダブルケアラー」の家族会・コミュニティに参加
- 一般社団法人ダブルケアサポート:全国のダブルケアラー支援団体
- 自治体の家族会
- SNSの同じ立場のコミュニティ
- 地域包括支援センター紹介の家族会
「うちだけじゃない」と知ることが、大きな救いになります。
仕事を辞める前に必ず試す5つのこと
会社の人事・上司に状況を共有
2025年4月改正で、事業主は両立支援制度の個別周知・意向確認の義務を負います。「ダブルケアで両立が難しくなりつつあります」と早期に申し出ることで、
- 勤務時間・場所の柔軟化
- テレワーク導入
- 業務量の調整
- 異動・配置転換の検討
といった対応を受けやすくなります。
育児休業+介護休業の戦略的活用
「介護休業93日を、親の入院・退院・施設選定の3回に分割」など、戦略的な活用で勤続を維持できます。給付金もあるため経済的負担も軽減。
短時間勤務+テレワークの組み合わせ
育児短時間勤務+介護短時間勤務+テレワーク——制度を重ねて柔軟な勤務形態を作る。
ケアマネ・保育園に「ダブルケアです」と明確に伝える
状況を伝えることで、サービスの組み立てに配慮してもらいやすくなります。ケアマネは「親の通院は親の体調が許す限り朝に」、保育園は「夕方のお迎え遅刻があり得る」など、現実に合わせた調整が可能。
兄弟・親族・夫との分担を再協議
自分が主担当を続けることが本当に最適か、改めて家族会議で議論してください。
介護福祉士から見た|ダブルケアを乗り切れた家族
介護福祉士 SEDO(経験7年)
ダブルケアを離職せずに乗り切れたご家族には、共通点がありました。
- 会社の人事に早期に相談:制度の最大活用
- 夫婦の徹底した分担:「私だけが頑張る」を超えた
- 外部サービスを罪悪感なく使う:「お金で時間を買う」を実践
- 自分のメンタルケアを最優先:心療内科の定期受診を欠かさない
- 「完璧」を諦める:子の弁当をコンビニで買う日もOK
逆に離職せざるを得なかったご家族の多くは、
- 会社に相談する前に「自分で何とかしよう」と頑張った
- 夫の協力が得られなかった(or 自分から頼れなかった)
- 外部サービスへの罪悪感が強かった
- 気づいたら介護うつになっていた
といった傾向。「制度を権利として使う」「家事育児介護を分担する」「完璧を諦める」の3点が、ダブルケアを持続可能にする最大のコツです。
まとめ|「全部やる」を捨てる勇気
本記事の要点を整理します。
- ダブルケアラー推定25万人以上、30〜40代女性に集中
- 三重負担(育児・介護・仕事)で離職リスクが極めて高い
- 育児・介護の制度を併用できる(2025年4月改正で支援拡充)
- 夫婦・兄弟の徹底した分担(「私だけ」を超える)
- 外部サービスを罪悪感なく組み合わせる
- 仕事を辞める前に、会社の人事に必ず相談
- 自分のメンタル・体調管理を最優先(心療内科の活用)
ダブルケアは、社会的・構造的な問題です。「私だけが頑張れない」のではなく、「みんなで支える仕組み」を作るのが、ダブルケアラーの本当のミッション。
「全部完璧にやる」は最初から不可能です。「全部やる」を捨てる勇気を持って、夫婦・親族・職場・行政・サービス事業所・専門家——すべてを巻き込んで、自分と家族を守ってください。
▶ 次のステップ
・介護離職を選ぶ前に知ってほしい現実 → 介護離職を選ぶ前に知ってほしい現実
・介護休業給付金の申請方法 → 介護休業給付金の申請方法完全ガイド
・介護うつのサインと予防 → 介護うつのサインと予防
・地域包括支援センターの使い方 → 地域包括支援センターの使い方
よくある質問
Q:ダブルケアとは何ですか?どのくらい該当者がいますか?
A:ダブルケアは、育児と介護を同時に担う状態を指します。内閣府の調査では、ダブルケアを行う人は推定25万人以上、潜在的な該当者は数十万人とされています。発症の中心は30〜40代の女性で、晩婚化・晩産化により出産年齢が上がる一方、親世代の介護開始時期と重なる構造から増加傾向。仕事を続ける現役世代が、自分の子の養育と親の介護を同時に担うことで、心身・経済・キャリアの三重負担に直面します。育児・介護どちらかでも単独で大変な中、両方を同時に担うため、ダブルケアラーの心身の疲弊は深刻で、家族・職場・行政・地域の包括的な支援が必要です。
Q:ダブルケアで使える制度には何がありますか?
A:育児と介護の両方の制度を組み合わせて使えます。育児側では育児休業(最長子が2歳まで)・育児短時間勤務(小学校就学前)・子の看護休暇・保育園・学童保育。介護側では介護休業(対象家族1人につき93日)・介護休暇(年5日)・介護短時間勤務・介護保険サービス。さらに2025年4月の育児・介護休業法改正で、事業主に両立支援制度の個別周知・テレワーク努力義務などが課されました。両制度の併用も可能(同じ月に育児短時間と介護休暇を組み合わせるなど)。会社の人事部に「ダブルケアで使える制度を全部教えてほしい」と申し出てください。社会保険労務士やハローワークも相談先になります。
Q:ダブルケアで仕事を辞めずに続けるコツは?
A:5つのコツがあります。①会社の制度を最大限活用(育児休業・介護休業・短時間勤務・テレワーク)、②夫婦・親族間の徹底した分担(家事も含めて)、③外部サービスの組み合わせ(保育園延長・学童・介護保険・家事代行)、④ケアマネ・保育園に「ダブルケアです」と明確に伝える(配慮されやすくなる)、⑤自分の体調を最優先(心療内科の定期受診含む)。離職を考える前に、必ず会社の人事・上司に状況を共有してください。2025年4月改正で会社の支援義務が拡充されているため、相談すれば制度の説明と利用支援を受けられます。「辞める」のはいつでもできますが、辞めずに乗り切る道は今しか作れません。
📚 出典・参考
・内閣府「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」
・厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」
・厚生労働省「育児・介護休業法改正のポイント」(2025年4月施行)
・一般社団法人ダブルケアサポート
・各地域ハローワーク/都道府県労働局
・各市区町村「子育て支援」「介護家族者支援」要綱
※両立支援・制度活用は会社の人事部・社会保険労務士・ハローワークにご相談ください。メンタル相談は心療内科・精神科・自治体精神保健福祉センターへ。情報は2026年4月時点の一般的な解説です。



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