「おむつ交換のとき、おしりが赤くなっているのに気づいて……これって床ずれの始まりでしょうか」
ある日、自宅で寝たきりのお父様を介護する娘さんから、不安そうな相談がありました。床ずれ(褥瘡:じょくそう)は、いったん深くなると治療に何か月もかかり、本人にとっても大きな苦痛になります。けれど逆に言えば、正しい知識があれば、その多くは予防できるものです。
床ずれは「介護が下手だからできる」のではありません。寝たきりや低栄養など、条件が重なれば誰にでも起こりうるもの。だからこそ、家族が「仕組み」で防ぐ視点が大切です。
本記事では、介護福祉士として在宅・施設で多くの褥瘡ケアに関わってきた経験をふまえ、2026年6月時点の情報に基づいて「なぜできるのか」「できやすい部位」「体位変換のコツ」「エアマット・寝具の選び方」「栄養とスキンケア」「できてしまったときの正しい初期対応」を整理します。床ずれの処置は医療の領域です。赤み・傷に気づいたら、自己判断で薬を塗らず、必ず主治医・訪問看護師に相談してください。
床ずれ(褥瘡)はなぜできるのか|4つの要因
床ずれの正体は、圧迫で血流が途絶え、皮膚や皮下組織が傷むことです。同じ部位が2時間以上圧迫され続けると危険といわれます。これに次の要因が重なると、より短時間で・治りにくい床ずれになります。
- 圧迫:同じ姿勢が続く(寝たきり・座りっぱなし)
- ずれ・摩擦:ベッドで体がずり下がる、引きずって動かす
- 湿り(浸軟):おむつ内の尿・便・汗で皮膚がふやける
- 低栄養・やせ:クッションになる皮下脂肪・筋肉が減り、皮膚も弱くなる
さらに、糖尿病・むくみ・血流障害などの持病、皮膚の乾燥や加齢による薄さが加わると、リスクは一段と高まります。
できやすい部位を知る|「骨の出っ張り」が要注意
床ずれは、骨が出っ張っていて、皮膚と骨の間にクッションが少ない場所にできます。姿勢によって圧がかかる場所が変わるので、それぞれ覚えておきましょう。
| 姿勢 | できやすい部位 |
|---|---|
| あおむけ | 仙骨部(おしり中央)・かかと・後頭部・肩甲骨・ひじ |
| 横向き | 大転子部(股関節の外側)・耳・くるぶし・肩 |
| 座位(車いす) | 坐骨部・尾骨・かかと |
とくに仙骨部(おしり)とかかとは最頻発部位。おむつ交換や着替えのたびに、これらの部位の赤み・皮膚の変化を毎日チェックする習慣をつけてください。
予防の柱①|体位変換|「2時間おき・30度・持ち上げてずらす」
介護福祉士 SEDO(経験7年)
体位変換は床ずれ予防の基本中の基本ですが、「ただ向きを変える」だけでは不十分。角度とずらし方にコツがあります。
頻度の目安は2時間おき
同じ部位が2時間以上圧迫されると危険なので、最低2時間に1回は姿勢を変えます。ただしエアマットを使っていれば3〜4時間おきでよいこともあり、皮膚が弱い方はもっと頻回が必要なことも。頻度は訪問看護師・ケアマネと相談して本人に合わせて決めましょう。
向きのローテーションと「30度側臥位」
- あおむけ → 右横向き → あおむけ → 左横向き、と順番に
- 横向きは背中にクッションを当てて約30度の安定した角度に(完全な90度の横向きは大転子部に圧が集中するので避ける)
- かかとはクッションでふくらはぎを支え、かかとを浮かせると効果的
「ずらさず持ち上げる」
体を引きずると、摩擦とずれで皮膚を傷めます。シーツや体位変換用のスライドシートを使い、持ち上げるように動かすのが鉄則。腰を痛めないよう、介助バーや電動ベッドの背上げ機能も活用してください。
予防の柱②|体圧分散寝具(エアマット)の活用
夜間まで家族が2時間おきに体位変換を続けるのは大きな負担です。そこで体圧分散寝具が強い味方になります。介護保険の福祉用具レンタルで借りられるものが多くあります。
| 種類 | 特徴・向いている人 |
|---|---|
| 静止型マットレス(ウレタン・ゲル) | 自分で寝返りがある程度打てる、床ずれリスクが低〜中の方 |
| エアマット(圧切替型) | 空気圧が自動で変わり圧を分散。寝返りが打てない・リスクが高い方 |
| クッション類(かかと・座位用) | 部分的な除圧。車いす利用者の坐骨部など |
どのタイプが合うかは、本人の状態・床ずれリスクによって変わります。ケアマネジャー・福祉用具専門相談員・訪問看護師と相談して選ぶと失敗がありません。福祉用具レンタルの仕組みは、こちらの記事で詳しく解説しています。

予防の柱③|栄養|「やせ」と「低栄養」を防ぐ
意外に見落とされがちですが、栄養状態は床ずれの治りやすさ・できやすさを大きく左右します。やせて皮下脂肪が減ると骨が当たりやすく、たんぱく質が不足すると皮膚や傷の修復力が落ちます。
- たんぱく質:肉・魚・卵・大豆・乳製品をしっかり(傷の修復に不可欠)
- エネルギー:体重が減らないよう、食事量の低下に注意
- 水分:脱水は皮膚の弾力低下につながる
- ビタミン・亜鉛:皮膚・粘膜の健康維持
食が細い・むせる場合は、栄養補助食品(ゼリー・ドリンク)や食形態の工夫を。食事・嚥下や脱水のケアも、床ずれ予防と地続きです。

予防の柱④|スキンケア|「清潔・乾燥させすぎない・湿らせすぎない」
- 清潔に保つ:おむつ内の尿・便はこまめに交換し、やさしく洗浄
- 適度な保湿:乾燥した皮膚は傷つきやすい。保湿クリームで潤いを
- 湿らせすぎない:汗・尿で皮膚がふやけると弱くなる。撥水性の保護クリームも有効
- こすらない:拭くときは押さえるように。ゴシゴシ厳禁
- 毎日の観察:おむつ交換・入浴・着替えのたびに、好発部位の赤み・傷をチェック
もし赤み・床ずれができてしまったら|正しい初期対応
「退色しない赤み」は危険サイン
赤くなった部分を指で軽く押してみてください。
- 白っぽく退色し、離すと赤みが戻る → 比較的軽い段階。圧迫を避ければ回復しやすい
- 押しても赤みが消えない(退色しない) → すでに内部で組織が傷み始めたサイン。早めに医療職へ
⚠ 自己判断で市販薬・テープを使わない
水ぶくれ・皮膚のめくれ・黒っぽい変色・じくじくした傷・膿・においがある場合は、感染のおそれもあります。市販薬を自己判断で塗ると悪化させたり、医師が状態を評価できなくなることがあります。床ずれの処置は「医療の領域」。まず主治医・訪問看護師に相談してください。
医療職に診てもらうまでにできること
- その部位への圧迫を避ける(体位を変え、当たらないようにする)
- 皮膚を清潔・乾燥に保つ
- 赤み・傷の大きさ・色・状態をメモや写真で記録し、訪問看護師・医師に共有
床ずれの治療・処置は、訪問看護や訪問診療の得意分野です。在宅医療を使っておくと、こうした皮膚トラブルにも早く専門的に対応してもらえます。

家族だけで抱えない|サービスで分担する
体位変換・おむつ交換・スキンケアを24時間家族だけで担うのは限界があります。次のサービスで負担を分け合いましょう。
- 訪問介護:おむつ交換・体位変換・清潔ケアの援助
- 訪問看護:床ずれの観察・処置・予防指導(医療の専門職)
- 福祉用具レンタル:エアマット・体位変換クッション・介護ベッド
- 訪問入浴:清潔保持と全身の皮膚観察の機会
「これくらい家族でやらなきゃ」と抱え込むほど、見落としや介護者の疲弊が増えます。プロの目を定期的に入れることが、結果的に最良の床ずれ予防になります。
まとめ|床ずれは「仕組み」で防ぐ
- 床ずれは圧迫・ずれ・湿り・低栄養が重なってできる。誰にでも起こりうる
- 仙骨部・かかとなど骨の出っ張りを毎日チェック
- 体位変換は2時間おき・30度側臥位・持ち上げてずらす(頻度は専門職と相談)
- エアマット等の体圧分散寝具を福祉用具レンタルで活用し、夜間の負担を軽減
- たんぱく質・水分の栄養と清潔・適度な保湿のスキンケアが予防の土台
- 退色しない赤みは危険サイン。自己判断で薬を塗らず主治医・訪問看護師へ
床ずれ予防は、特別な技術より「毎日の観察」と「仕組みづくり」がものを言います。家族の手と、福祉用具と、医療・介護の専門職。この3つを組み合わせれば、大切な人の肌を守ることができます。赤みや傷に気づいたら、ためらわず主治医・訪問看護師に相談してください。
▶ 次のステップ
・福祉用具レンタル・住宅改修ガイド(エアマット・介護ベッド) → 福祉用具レンタル・住宅改修ガイド
・食事介助と嚥下障害(低栄養・誤嚥を防ぐ) → 食事介助と嚥下障害の実践ガイド
・高齢者の脱水予防 → 高齢者の脱水予防|夏冬それぞれのリスクと対策
・在宅医療の使い方(訪問看護・往診) → 在宅医療の使い方完全ガイド
よくある質問
Q:床ずれ(褥瘡)はなぜできるのですか?できやすい場所は?
A:床ずれ(褥瘡)は、寝たきりや車いすで同じ姿勢が続くことで、体重で圧迫された皮膚や皮下組織の血流が途絶え、その部分の細胞が傷んでしまう状態です。一般に同じ部位が2時間以上圧迫され続けると危険といわれます。とくにできやすいのは、骨が出っ張っていて皮膚と骨の間にクッションが少ない場所です。あおむけでは仙骨部(おしりの中央)・かかと・後頭部・肩甲骨・ひじ、横向きでは大転子部(股関節の外側)・耳・くるぶし、座位では坐骨部に多く生じます。圧迫だけでなく、ずれ(体がずり下がる摩擦)、おむつ内の湿り(尿・便・汗)、低栄養、皮膚の乾燥や薄さ、糖尿病などの持病が重なると、より短時間で・治りにくい床ずれができます。予防の基本は「圧を分散する・ずらさない・皮膚を清潔と適度な潤いに保つ・栄養を満たす」の4つです。
Q:体位変換は何時間おきに行えばいいですか?
A:基本の目安は「2時間おき」です。同じ部位が2時間以上圧迫されると血流障害が起こりやすいため、最低でも2時間に1回は姿勢を変えます。ただし、エアマットなどの体圧分散寝具を使っている場合は、機種や本人の状態に応じて3〜4時間おきでよいこともあり、逆に皮膚が弱い方・すでに赤みがある方はもっと頻回に必要なこともあります。頻度は一律ではなく、訪問看護師やケアマネジャーと相談して本人に合わせて決めるのが安全です。体位変換のコツは、あおむけ→右横向き→あおむけ→左横向きと向きをローテーションすること、横向きのときは背中にクッションを当てて30度くらいの安定した角度にすること(90度の完全な横向きは大転子部に圧が集中しやすい)、そして体を引きずらず「持ち上げてずらす」ことです。夜間にすべて家族が行うのは負担が大きいため、エアマットの活用や訪問サービスで分担しましょう。
Q:皮膚が赤くなってきました。市販の薬を塗っていいですか?
A:自己判断で市販薬を塗るのは避け、まず主治医・訪問看護師に相談してください。皮膚の赤みは床ずれの初期サインのことがあります。見分け方の目安として、赤くなった部分を指で軽く押して、白っぽく退色して指を離すと赤みが戻る場合は比較的軽い段階ですが、押しても赤みが消えない(退色しない)場合は、すでに内部で組織の傷みが始まっているサインで、放置すると急速に深い床ずれへ進みます。この段階を見つけたら、その部位への圧迫を避け、できるだけ早く医療職に診てもらってください。市販の薬やテープを自己判断で使うと、かえって悪化させたり、医師が状態を正しく評価できなくなることがあります。とくに水ぶくれ・皮膚のめくれ・黒っぽい変色・じくじくした傷・膿・においがある場合は、感染のおそれもあるため早急に受診が必要です。床ずれの処置は「家庭の判断」ではなく「医療の領域」と考え、訪問看護を上手に活用してください。
📚 出典・参考
・日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン」「褥瘡対策の指針」
・厚生労働省「褥瘡対策に関する指針」関連
・厚生労働省「介護保険における福祉用具」関連
・日本創傷・オストミー・失禁管理学会(スキンケア)
※情報は2026年6月時点の一般的な解説です。床ずれの処置・治療は医療行為です。赤み・傷・水ぶくれなどに気づいたら、自己判断で市販薬を使わず、必ず主治医・訪問看護師にご相談ください。



コメント