「クーラーはつけてるって言ってたのに、訪問したら部屋がサウナみたいで……母がぐったりしていたんです」
ある真夏の日、遠方に住む娘さんから慌てた様子で相談がありました。実家のお母様は「エアコンは寒いから嫌い」と、設定温度を30度にして弱運転。本人は「平気」と言うけれど、室温は実際には33度を超えていた——。幸い大事には至りませんでしたが、あと少し発見が遅れていたら危なかったケースです。
高齢者の熱中症は、炎天下の屋外だけで起きるものではありません。救急搬送のおよそ半数以上が65歳以上で、しかも発生場所として最も多いのは「住居(室内)」です(総務省消防庁)。つまり、エアコンのある自宅の中でも、家族が見守っていても起こりうるのが、高齢者の熱中症の怖さです。
本記事では、介護福祉士として夏の在宅介護に多く関わってきた経験をふまえ、2026年6月時点の情報に基づいて「なぜ高齢者は危ないのか」「室温と水分の具体的な守り方」「エアコンを嫌がる人への声かけ」「救急車を呼ぶ重症サインと応急処置」を、今日から使える形で整理します。持病・服薬のある方は、必ず主治医・訪問看護師にも相談してください。
なぜ高齢者は熱中症になりやすいのか|3つの体の変化
体の水分が「もともと少ない」
体内の水分量は、成人で体重の約60%、ところが高齢者では50%前後まで減ります。蓄えが少ないぶん、少し汗をかいただけでも脱水に傾きやすいのです。
「暑い」「のどが渇いた」を感じにくい
加齢で体温やのどの渇きを感じるセンサーが鈍くなります。本人は本当に暑さを自覚していないため、「平気」「まだ大丈夫」という言葉を鵜呑みにできないのがポイントです。
熱を逃がす力が落ちている
- 汗をかく機能の低下(熱を発散できない)
- 血管を広げて熱を逃がす反応の鈍化
- 心臓や腎臓の予備力の低下
さらに、認知症があると「暑い」「水を飲もう」という判断自体が難しくなり、利尿剤・降圧剤・下剤などの服薬は体内の水分をさらに奪います。これらが重なって、高齢者は「気づいたときには重症」になりやすいのです。

室温・湿度の管理|「28度・湿度60%以下」を数字で守る
温度計・湿度計を「本人の目線」に置く
高齢者は体感がアテになりません。だからこそ、大きな文字の温湿度計を、本人がいつも座る場所のすぐ近くに置きます。「数字で見える化」することが、声かけの根拠になります。
| 指標 | 目安 | 超えたら |
|---|---|---|
| 室温 | 28度以下 | エアコン(冷房)を入れる |
| 湿度 | 60%以下 | 除湿(ドライ)運転にする |
| 暑さ指数(WBGT) | 28未満 | 28以上は「厳重警戒」、屋外活動を控える |
湿度が高いと汗が蒸発せず、同じ室温でも熱がこもります。「温度」だけでなく「湿度」も必ずチェックしてください。
エアコンは「つけっぱなし」が基本
- こまめにオン・オフするより、つけっぱなしの方が電気代も体への負担も少ない
- 夜間の最低気温が25度以上の「熱帯夜」は、就寝中もつけたままに
- 風が直接体に当たらないよう、風向きは「上向き」に設定
- 扇風機・サーキュレーターを併用して空気を循環させる
環境の小さな工夫
- 日中はカーテン・すだれ・遮光カーテンで直射日光を遮る
- 2階・西日の部屋は特に高温になりやすいので、過ごす部屋を1階に移す
- 冷感寝具・保冷枕を使う
- トイレ・浴室・脱衣所など、エアコンのない場所での「ヒートショック的な暑さ」にも注意
エアコンを嫌がる高齢者への声かけ|原因別の対応
介護福祉士 SEDO(経験7年)
「エアコンをつけて」と正論をぶつけても、まず動いてくれません。大事なのは“なぜ嫌なのか”に合わせて言い方と環境を変えることです。
| 嫌がる理由 | 声かけ・対応の工夫 |
|---|---|
| 「冷えて体がだるい・関節が痛い」 | 設定28度・風は上向き・薄手の上着やひざ掛けを併用。「冷やすためじゃなく、こもった熱を逃がすため」と説明 |
| 「電気代がもったいない」 | 「最新のエアコンは1日数十円」「熱中症で入院する方がずっと高い」と具体的な金額で伝える |
| 「暑くない・平気」 | 温度計を指して「28度を超えたらスイッチ」と数字でルール化。本人と一緒に決める |
| 操作が分からない・忘れる | リモコンに「冷房/28度」とテープで印。家族が外出前にタイマー設定 |
それでも難しいときは、本人を説得するより環境を変えるのが現実的です。日中をデイサービスで過ごしてもらう、見守りカメラ+室温センサーで遠隔確認する、といった仕組みで補います。命に関わる猛暑日は「本人がどう言おうと、つけっぱなしが正解」と割り切る勇気も必要です。

水分・塩分の補給|「のどが渇く前に・こまめに」
1日の水分量の目安
食事以外で、1日あたり1,000〜1,500ml(コップ約6〜8杯)がひとつの目安です。ただし心臓・腎臓の病気で水分制限がある方は、必ず主治医の指示に従ってください。自己判断で増やすのは危険です。
飲ませ方のコツ
- 「のどが渇く前に」——渇きを感じにくいので、時間を決めて促す
- 起床時・食事ごと・入浴前後・就寝前などタイミングを生活に組み込む
- 1回コップ1杯をこまめに(1日6〜8回)
- 大量に汗をかいたときは経口補水液で水分と塩分を同時に補給
- むせやすい方はとろみをつける/ゼリー飲料を活用
塩分(電解質)も忘れずに
大量の汗は水分だけでなく塩分(ナトリウム)も奪います。水だけを大量に飲むとかえって体内の塩分が薄まり、不調を招くことも。たくさん汗をかいた日は経口補水液やみそ汁・梅干しなどで適度な塩分を。ただし高血圧・心不全・腎臓病で塩分制限のある方は主治医に確認を。
水分になる「食べる工夫」
- 水分の多い食材:すいか・きゅうり・トマト・梨など
- ゼリー・寒天・ヨーグルト・冷たいスープ
- 食欲が落ちる夏こそ、食事から摂る水分が大切(食事量の低下=水分・塩分の低下)
夏バテで食事量が落ちると、脱水と低栄養が同時に進みます。飲み込みや食事の工夫については、こちらも参考にしてください。

熱中症のサインを見逃さない|初期〜重症の段階
軽症(この段階で気づきたい)
- 顔がほてる・赤い/いつもより口数が少ない・元気がない
- 立ちくらみ・めまい・足がつる(こむら返り)
- 大量の汗、または逆に「いつもと違って汗をかいていない」
- 「なんとなくだるい」「食欲がない」
高齢者は訴えが乏しく、「なんとなく元気がない」が唯一のサインのこともあります。「いつもと違う」に気づくのが最大の予防です。
中等症(すぐに対応・受診を検討)
- 頭痛・吐き気・嘔吐
- 体に力が入らない・ぐったりする
- 集中力・判断力の低下、ぼんやりする
重症(迷わず救急車 119)
⚠ 次のサインが1つでもあれば、迷わず救急車(119)
・呼びかけへの反応がおかしい/意識がもうろうとしている
・自分で水分が飲めない
・まっすぐ歩けない/けいれんしている
・体は熱いのに汗が出ていない
・体温が高く、下がらない
判断に迷うとき・救急車を呼ぶべきか分からないときは、救急安心センター「#7119」に電話で相談できます(対応地域あり)。
もし熱中症が疑われたら|家庭でできる応急処置
- 涼しい場所へ移す:エアコンの効いた室内、風通しのよい日陰へ
- 衣服をゆるめ、体を冷やす:首・わきの下・足の付け根(太い血管がある場所)を保冷剤や濡れタオルで冷やす。うちわや扇風機で風を送る
- 水分・塩分を補給:意識がはっきりして自分で飲めるなら、経口補水液を少しずつ
- 意識がもうろうとしている人に無理に飲ませない:誤嚥(気管に入る)の危険。この場合はすぐ救急車
- そばを離れず、変化を観察:改善しない・悪化するなら迷わず119
「少し休めば治る」と様子を見ているうちに重症化するのが高齢者の熱中症です。迷ったら冷やす・呼ぶを基本にしてください。
遠距離・日中独居の高齢者を守る見守りの工夫
日中ひとりで過ごす時間が長い・遠方に住んでいる場合は、「環境」と「見守り」の二重の備えが要になります。
- 室温センサー・見守りカメラ:室温の異常を家族のスマホに通知
- エアコンのスマート化:外出先からスマホで操作・タイマー設定
- デイサービス・ショートステイ:猛暑期は利用日を増やし、涼しい環境で過ごす
- 訪問介護・配食サービス:訪問のたびに室温・水分・体調を確認してもらう
- ご近所・民生委員:「猛暑日は声かけを」と事前にお願いしておく
「本人が大丈夫と言うから」と任せきりにせず、客観的な情報源(センサー・訪問者・数字)を重ねるのが、夏の在宅介護の鉄則です。在宅医療・訪問看護を使っている場合は、夏の体調管理についても気軽に相談してください。

まとめ|夏の高齢者を守る5つのポイント
- 高齢者の熱中症は室内・自宅でも起こる。搬送の半数以上が65歳以上
- 室温28度・湿度60%以下を温湿度計で「数字」で管理。エアコンはつけっぱなしが基本
- エアコンを嫌がる人には原因別の声かけ+環境側の工夫で対応
- 水分は「のどが渇く前にこまめに」1日1,000〜1,500ml(水分制限がある方は主治医の指示)。汗をかいたら塩分も
- 重症サイン(意識・歩行・飲水・発汗の異常)は迷わず救急車119。迷うときは#7119
夏は、ほんの数時間の油断が命に関わる季節です。けれど、ここで紹介した備えはどれも今日から始められるものばかり。「暑さに気づけない親」を、家族と専門職と仕組みで一緒に守っていきましょう。持病・服薬・水分制限のある方は、必ず主治医・訪問看護師に夏の過ごし方を相談してください。
▶ 次のステップ
・高齢者の脱水予防(夏冬の通年対策) → 高齢者の脱水予防|夏冬それぞれのリスクと対策
・食事介助と嚥下障害(むせ・誤嚥を防ぐ) → 食事介助と嚥下障害の実践ガイド
・デイサービスとデイケアの違い → デイサービスとデイケアの違い
・在宅医療の使い方(訪問看護・往診) → 在宅医療の使い方完全ガイド
よくある質問
Q:なぜ高齢者は熱中症になりやすいのですか?
A:高齢者は3つの理由で熱中症リスクが高まります。①体内の水分量が若い人より少なく(成人60%に対し高齢者は50%前後)、脱水に陥りやすい。②暑さやのどの渇きを感じるセンサーが鈍くなり、「暑い」「のどが渇いた」と気づきにくい。③汗をかく機能や血管を広げて熱を逃がす力が低下し、体に熱がこもりやすい。さらに認知症があると室温やのどの渇きの判断そのものが難しくなり、利尿剤・降圧剤などの服薬も脱水を進めます。総務省消防庁の統計でも、熱中症による救急搬送のおよそ半数以上が65歳以上の高齢者で、しかも発生場所の多くが屋外ではなく「住居(室内)」です。つまり高齢者の熱中症は、エアコンのある自宅の中でも起こる身近なリスクなのです。
Q:高齢者が「エアコンは嫌い」と言って使ってくれません。どうすればいいですか?
A:高齢者がエアコンを嫌がる背景には「冷えすぎてだるい・関節が痛む」「電気代がもったいない」「暑さを感じていない」という3つの理由が多くあります。頭ごなしに「つけて」と言うより、原因に合わせた工夫が有効です。設定温度を28度前後と高めにし、風が直接体に当たらないよう風向きを上向きにする。電気代が心配な方には「熱中症で入院する方がずっと高くつく」「最新機種は1日数十円」と具体的に伝える。暑さを感じない方には、室内に大きな温度計・湿度計を置き、「28度を超えたらスイッチを入れる」と数字をルール化する。それでも難しい場合は、本人が日中過ごすデイサービスの利用日を増やす、家族が見守りカメラ+室温センサーで遠隔確認するなど、本人の意思を尊重しつつ環境側を整える発想が現実的です。命に関わる場面では「つけっぱなしが正解」と割り切ることも大切です。
Q:高齢者が熱中症かもしれないとき、救急車を呼ぶ目安は?
A:次のような重症サインが1つでもあれば、迷わず救急車(119)を呼んでください。①呼びかけへの反応がおかしい・意識がもうろうとしている・返事ができない、②自分で水分が飲めない、③まっすぐ歩けない・けいれんしている、④体が触ると熱いのに汗が出ていない、⑤体温が高く下がらない。これらは「熱射病」に進んだ危険な状態で、命に関わります。救急車を待つ間は、涼しい場所へ移し、衣服をゆるめ、首・わきの下・足の付け根を保冷剤や濡れタオルで冷やします。意識がはっきりしていて自分で飲める場合は、経口補水液やスポーツドリンクを少しずつ与えます。一方、意識がもうろうとしている人に無理に飲ませると誤嚥(気管に入る)の危険があるため絶対に行わないでください。判断に迷うときは、救急安心センター事業「#7119」に電話して相談できます。
📚 出典・参考
・総務省消防庁「熱中症による救急搬送状況」
・環境省「熱中症予防情報サイト」「熱中症環境保健マニュアル」
・厚生労働省「高齢者のための熱中症予防」関連リーフレット
・日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン」
・消防庁「救急安心センター事業(#7119)」
※情報は2026年6月時点の一般的な解説です。心臓・腎臓の病気による水分・塩分制限がある方、持病・服薬のある方は、必ず主治医・訪問看護師の指示に従ってください。重症が疑われる場合は迷わず救急車(119)を呼んでください。



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