認知症の方が突然「家に帰りたい」「ここはどこ?」と言い出すことがあります。
これは介護現場では 帰宅願望(きたくがんぼう) と呼ばれる症状です。
家に帰りたいと言われると、
- 「ここが家ですよ」
- 「さっき説明しましたよ」
と説明したくなります。
しかし多くの場合、理屈での説明はほとんど効果がありません。
なぜなら帰宅願望は
記憶の問題だけではなく、不安や混乱から生まれる感情だからです。
認知症の方にとっては、
「知らない場所にいる恐怖」
「自分の役割を忘れてしまった不安」
などが重なり、結果として
「家に帰らなければ」
という思いになるのです。
つまり帰宅願望は、単なるわがままではなく
安心を求めるサインと言えます。
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なぜ「家に帰りたい」と言うのか
帰宅願望にはいくつかの典型的な理由があります。
環境が理解できない
認知症が進むと、場所の認識が難しくなります。
施設や病院にいる場合、
- 「ここはどこなのか」
- 「なぜ自分がここにいるのか」
が理解できません。
その結果、
「知らない場所にいる → 家に帰ろう」
という思考になります。
これは人間として非常に自然な反応です。
昔の記憶に戻っている
認知症では新しい記憶より古い記憶が残りやすい特徴があります。
例えば、
- 子育て中の頃
- 仕事をしていた頃
- 実家で生活していた頃
このような時代の記憶が強く残っている場合、
「子どもが待っている」
「仕事に行かないと」
と感じることがあります。
その結果、
「家に帰らなければならない」
という思いにつながります。
不安や孤独感
帰宅願望の背景には強い不安が隠れていることも多いです。
認知症の方は、
- 周囲の状況が理解できない
- 知っている人がいない
- 何をしていいかわからない
という状態になることがあります。
そのとき、最も安心できる場所として思い浮かぶのが 「家」 なのです。
つまり帰宅願望は
「安心したい」
という気持ちの表れでもあります。
役割を思い出している
高齢者の中には、
- 「夕飯を作らないと」
- 「子どもが帰ってくる」
- 「仕事に行かなきゃ」
と言う方もいます。
これは昔の役割意識が残っているためです。
本人の中では
「自分はまだその役割を担っている」
という認識になっています。
そのため帰宅願望が生まれるのです。
帰宅願望へのNG対応
帰宅願望に対して、ついやってしまいがちな対応があります。
しかしこれらは逆効果になることが多いため注意が必要です。
強く否定する
よくある対応が
- 「ここが家ですよ」
- 「帰れません」
と否定することです。
しかし本人にとっては
「自分の気持ちを理解してもらえない」
というストレスになります。
結果として、
- 怒る
- 不穏になる
- 徘徊する
といった行動につながることがあります。
無理に止める
帰ろうとする人を
- 力で止める
- 強い口調で注意する
こうした対応もトラブルの原因になります。
本人は
「なぜ止められるのか」
が理解できません。
そのため不信感が強まり、
介護者との関係が悪化することもあります。
帰宅願望への基本的な対応
帰宅願望の対応で大切なのは 安心感を作ること です。
ここでは現場でよく使われる対応方法を紹介します。
まず気持ちを受け止める
最初に大切なのは否定しないことです。
例えば
- 「家に帰りたいんですね」
- 「心配ですよね」
と共感する言葉をかけます。
このように気持ちを受け止めるだけで、
落ち着く方も多くいます。
理由を聞いてみる
帰宅願望には必ず理由があります。
例えば
- 「誰か待っているんですか?」
- 「何か気になることがありますか?」
と優しく聞いてみると、
- 「子どもが帰ってくる」
- 「ご飯を作らないと」
など、本音が見えてくることがあります。
理由が分かれば、対応もしやすくなります。
気持ちをそらす
帰宅願望は気持ちの切り替えで落ち着くことも多いです。
例えば
- お茶を勧める
- 散歩に誘う
- 会話をする
など、自然に別の行動へ誘導します。
無理に止めるのではなく
「一緒に別のことをする」
という形が理想です。
「一緒に帰りましょう」と声をかける
帰宅願望が強い場合、
「少し休んでから帰りましょう」
「一緒に外を見に行きましょう」
などの声かけも有効です。
外に出て歩くうちに、
- 気持ちが落ち着く
- 目的を忘れる
というケースも多くあります。
帰宅願望は「問題行動」ではない
介護現場では、帰宅願望はしばしば「問題行動」として扱われることがあります。
しかし認知症ケアの考え方では、帰宅願望は単なるトラブル行動ではなく
本人の不安や混乱から生まれる自然な反応
と理解されています。
以前の記事で解説したように、
認知症の周辺症状(BPSD)は「理由のない行動」ではありません。
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BPSD(認知症の問題行動)とは何か
その行動の裏には、必ず心理的・環境的な要因が存在します。
帰宅願望も同じです。
例えば、認知症の方は次のような状況に置かれることがあります。
- 今いる場所が理解できない
- なぜここにいるのか分からない
- 周囲の人が誰なのか思い出せない
- 自分の役割を思い出せない
このような状態は、私たちが想像する以上に強い不安を生みます。
仮に私たち自身が、突然知らない場所に連れてこられ、
周囲の状況も説明も理解できない状態になったとしたらどうでしょう。
多くの人は
「自分の家に帰りたい」
「安心できる場所に戻りたい」
と感じるはずです。
つまり帰宅願望とは、
認知症の方にとって安心を求める行動なのです。
介護の世界では、行動の背景にある原因を考える視点を
「行動の意味を理解するケア」
と呼びます。
帰宅願望も、単に「帰ろうとしている人」ではなく、
- 不安を感じている人
- 安心できる場所を探している人
- 役割を思い出して行動している人
として理解することが重要です。
ここで注意したいのは、帰宅願望を「問題行動ではない」と言っても、
現場で対応が必要な行動であることに変わりはないという点です。
実際には、
- 施設外へ出てしまう
- 夜間に徘徊する
- 不穏につながる
など、安全面のリスクもあります。
そのため介護では
「行動を否定する」のではなく「行動の理由を理解して対応する」
という姿勢が大切になります。
帰宅願望を無理に止めようとすると、
不安や怒りを強めてしまうことがあります。
しかし「帰りたい理由」を理解し、不安を軽減する対応を取ることで、
自然と落ち着くケースも少なくありません。
つまり帰宅願望とは、
困らせる行動ではなく、気持ちを伝えるサイン
と捉えることが、認知症ケアの重要なポイントなのです。
まとめ
認知症の方が「家に帰りたい」と言う帰宅願望には、
- 環境が理解できない
- 昔の記憶に戻っている
- 不安や孤独感
- 役割意識
といった理由があります。
帰宅願望への対応で大切なのは、
- 否定しない
- 気持ちを受け止める
- 理由を聞く
- 気持ちをそらす
という基本姿勢です。
帰宅願望は決してわがままではなく、
安心を求めるサインです。
その気持ちに寄り添うことが、
認知症ケアの第一歩と言えるでしょう。
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よくある質問
Q:認知症の帰宅願望はなぜ起こるのですか?
A:認知症では場所や時間の認識が難しくなり、不安や混乱が生まれます。その結果「安心できる場所=家」に帰りたいという気持ちが強くなります。
Q:帰宅願望が強い場合はどうすればよいですか?
A:否定せず気持ちを受け止めることが大切です。お茶を飲む、散歩に誘うなど別の行動へ自然に誘導することで落ち着くことがあります。
Q:帰宅願望を止めるべきですか?
A:無理に止めると不安や怒りを強める場合があります。まずは理由を聞き、安心できる環境を作ることが重要です。



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